多くの企業でワークショップを実施して確信できたことがある。それは、参加者の発言や議論の内容を見ていると、「どうすればいいのか」「こうすればいいのではないか」といった解決策やルール、プロセスに関して言及している場合が多いということだ。
もちろん問題を解決するのは必要だ。しかしいつの間にか手段が目的化して、道を見誤ることが多い。
HOWは楽しい
どうしても物事を「HOW」から始めたくなってしまうのは人間の性(さが)のようだ。例えば普段の会議で、誰かが問題点を発見しようものなら、すぐに「さぁ、どうする!?」と問題の解決策の探求で盛り上がってしまい、HOWばかりに話が集中する。
「根本原因は何か?」「どうすれば根本的に解決できるか?」とアイデアを出し合っては解決していくという過程は、非常に楽しく夢中になれる。私も大好きだ。
私はこれまで企業の担当者から「B2Bマーケティングで成果が出ない」「うまくいかない」「頓挫した」という相談を受け、いくつもの“マーケティング導入プロジェクト”に関わってきた。このとき皆が最初に私に期待することは「どうすれば、マーケティングをうまく迅速に導入できるか?」というHOWだった。
それまでに失敗してきた企業の多くは、マーケティングのテクニックにおぼれたり、マーケティングオートメーション(MA)といったデジタルツールなどのHOWに注力したりしていた。その大前提である、「WHY」つまり何のためにマーケティングをするのかというゴールや、「WHAT」つまりマーケティング戦略は何か、といったことを忘れている場合がほとんどだ。
私への質問の多くは、
- マーケティングプロセスの構築はどうするのか?
- どうやってマーケティング専門部署を立ち上げるのか?
- どのマーケティング理論を学ぶべきか?
- どんなマーケティングツールを入れればいいのか?
というように、最初から「どうすればいいのか?」とHOWばかりに終始している。
いや、HOWが悪いと言っているのではなく、物事には順番があるでしょうという話だ。最終的にHOWがないままでは、実践的な導入は極めて困難である。
「いったいどのマーケティングツールが一番良いのだろう」と悩むのは、カタログスペックを比較して良い道具さえ選べば、マーケティングが成功すると錯覚をしているに過ぎない。まるで
「フルサイズのデジタル一眼レフさえ買えば、今日からプロカメラマンと同じだ」
「ミシュランのシェフと同じ調理器具をそろえれば、今日からプロの料理人だ」
「一番性能の高いMacBook Proを買えば、今日からアプリ開発者になれる」
と思っているのと同じだ。
HOWよりWHY、どうするよりもなぜするのか
HOWの「どうしよう?」という手法やツールについて悩む前に、WHATの「何を?」という戦略が先にあるべきだ。主語がないまま、「どうしよう」といっていても仕方がない。
ただし何をどうするという議論であっても、実は方向性を見失ったモグラ叩き的なエンドレスの問題解決会議のようになる。解決しても解決しても次から次へと問題が発生して、一向にゴールにたどり着かない。それもそのはずだ。WHATもHOWもゴールではないからだ。