既存の開発・保守手法は限界に達した。限界を打ち破るため、「超高速開発」に取り組む大企業が増え始めた。二度のシステム障害に揺れたみずほ銀行はシステム再構築にこの手法を採用する。パナソニック、ソフトバンクは「内製化は困難」という社内の常識を打ち破るのに使う。
2002年のシステム統合時に続き、2011年の東日本大震災直後にも大規模なシステム障害を引き起こしたみずほ銀行。信頼回復に向けて、次期勘定系システムの再構築プロジェクトに取り組んでいる。みずほ銀とみずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行の三つの勘定系システムを統合・刷新し、目指すのは2016年12月からの順次稼働だ。
3000億円プロジェクトの舞台裏
投資額は3000億円を超し、ピーク時の要員は実に7500人に達する。みずほ銀自ら「30年に一度」と位置付ける巨大プロジェクトに3度目の失敗は絶対に許されない。
この状況下でみずほ銀が選んだのは、既存の手法ではなく「超高速開発」という新たな選択肢だった。
12種類のアプリケーションで構成する次期勘定系システムの中核となるのは元帳を抱える「流動性預金」だ。開発規模はCOBOLプログラムで6000本程度に達し、12種のアプリケーションで最も大きい。この流動性預金に加え、「顧客認証」「内国為替」など、富士通が開発を担当する6種類のアプリケーションに超高速開発ツールを用いる(図1)。
超高速開発とは、プログラムを自動的に生成するツールを用いた開発手法のこと。業務に関するルールを自然言語や数式、独自の開発言語で設計情報として入力すれば、当該業務を実行するプログラムがクリックするだけで完成する。
これによりプログラミングと単体テストの工程をほぼゼロに短縮できる(図2)。ノンプログラミングツールやBRMS(ビジネスルール管理システム)ツールなどが代表的なものだ。開発、さらには運用後の保守にかかる時間を大幅に短縮できることから「超高速開発」と呼ぶ。
みずほ銀が超高速開発を選んだのは、従来手法に対する危機感からだ。30年にわたって使い続けてきたシステムは、保守を重ね、構造が複雑化、肥大化している。次も同じように開発すれば、いつの日かまた構造が複雑化、肥大化し、システム障害の遠因にもなりかねない。
みずほ銀の勘定系システムのアーキテクチャーやアプリケーションの設計・開発を担当する、みずほ情報総研 銀行システムグループ 勘定系第1事業部の山本章仁事業部長補佐は、超高速開発について、開発の速さではなく、業務ルールをツールに入力するプロセスによって、システムが統制しやすくなる点を評価する。
今回は、三つの銀行の基幹系システムを統合するため、何千人もの技術者で一気に6000本ものプログラムを作り変える難関の大規模プロジェクト。属人的な部分をなくし、全体を統制しなければ、開発はもちろん、後々の保守がもたないと判断したという。
昔から規約で統制はかけてきた。ただ大規模システムでは用語の使い方から設計書の書き方、プログラミングの作法まで、膨大な量に達する。事細かに規約を作り統制をかけても、「規約を完全に守り続けるのは不可能。いつか崩れる」(山本氏)。
みずほ銀が採用したツールは富士通の「Interdevelop Designer」。日本語で業務ルールを入力するのが特徴で、例えば「合計金額=振込金額+手数料」と打ち込むとCOBOLやJavaのプログラムを自動生成する。入力する日本語は「要件定義で洗い出してツールの辞書に登録した用語のみ」(山本氏)。徹底した統制を敷くべく万全を期した。
10年程前に、「同僚がメインフレームからC言語でオープン化するプロジェクトを担当していたが、プログラミングの自由度が高く、いくつもブラックボックスが生まれていた」。テストや保守に苦労する姿を目の当りにして、システム統制の重要性を痛感するようになったという。
どう統制しようかと考えていた2007年、次期システムの構想に向け、富士通が提案してきたのが超高速開発ツールだった。