米国のメディア業界は、この1~2年でゆっくり、かつ確実に変化している。“トレンド”というよりは、“進化”に近いものかもしれない。急激かつ一過性のものではなく、目立たないがじわじわと変化していっているような印象だ。
その変化が垣間見えるのは「メディアによる『コンテンツスタジオ』の相次ぐ開設」である。コンテンツスタジオとは、主に広告主企業に対し、メディア企業がその専門性を活かして立ち上げる、企業のブランデッドコンテンツ(ブランドや商品などに関わるメッセージを備えたコンテンツ)やネイティブ広告(一見しただけでは広告に見えないフォーマットを持つ広告)の制作のための組織である。
コンテンツスタジオという言葉は、日本ではまだそれほど広い範囲で語られていない印象を受ける。あまりニュースとしても大きく扱われることはない。
しかし米国ではこの1〜2年の間に、メディアがコンテンツスタジオを持つケースが相次いでいる。先行した例として、ニューヨークタイムズが2014年に立ち上げた、「T Brand Studio」と呼ばれるネイティブ広告制作部門がある。2017年6月上旬には、米ロイター社が新たに「Reuters Plus」という名前のコンテンツスタジオの開設について発表した。
コンテンツスタジオは、自社媒体のネイティブ広告を制作することに特化しているわけではない。かつてはそうした役割が中心にあり、前述のT Brand Studioはその最たるものだった。
だが現在は、その役割が若干変わってきている。自分たちで運営している媒体よりもむしろ、広告主企業のウェブサイトなどでコンテンツが展開されるケースが増えてきている。
大規模な例になると、スタッフを直接広告主に派遣し、その広告主企業が契約しているクリエイティブエージェンシーと一緒にコンテンツを制作するケースもある。
こうしたシフトが発生した背景には、いわゆる“プロモーション然とした広告”が避けられているという現状がある。これは、特に若年層において顕著に見える傾向だ。
米タイム社のコンテンツスタジオである「The Foundry」によれば、「ジェネレーションZ(2000年代に生まれた世代)の約3分の2は、いわゆる“広告”よりも、ブランデッドコンテンツの方を信じる傾向にある」という。