「変革を引き起こすのがITのミッションだ」とよく言われます。日経コンピュータやITproでも、ITを活用したイノベーションの事例紹介記事がしばしば掲載されています。変革に積極的でないシステム屋をしかる記事も目に付きます。

 しかし私を含め、長年ITを実際に担当してきた人ほど、こうした言説に違和感を覚えるはずです。読者にもそう感じている現場の人が少なくないのではないでしょうか。

 違和感を覚えるのは、何十年もITを担当してきた担当者でも、変革やイノベーションを実際に経験した人がほとんどいないはずだからです。嘘だと思うなら企業のIT予算の配分を調べてみてください。

 たいていの企業で、IT予算のほとんどがハードウエアの老朽化対応や、税制などの制度関連の変更に対応するシステム修正などに費やされているはずです。つまり既存システムを動かし続けるための予算が大半です。イノベーション関係はまず見つかりません。

 ひょっとしたら現場発の改善案に使う予算がいくつか見つかるかもしれません。しかしそれらの改善の内容はイノベーションと程遠いと感じられるはずです。サイバー攻撃対策のような新しいテーマも、必要に迫られているに過ぎません。

 これまでのコラムで私はDevOps(関連記事:DevOpsは「パセリ」なのか、元祖の会社を訪問して考えてみた)やエコシステム(エコシステムで日本が勝てない理由(前編)同(後編))といったITの新しい話題に触れてきました。

 しかし実際のITの現場では、DevOpsのような新しい技術に割り当てた予算や時間はまずありません。多くのITの現場はひたすら既存システムのメンテナンスに予算と時間を割いています。新しいIT技術の潮流は、企業システムの中に居場所がないように見えます。