音楽とインターネット、スタートアップ(新興企業)をテーマにしたイベント「ザ・ビッグ・パレード」が9月12~15日、東京・代官山で開催された。多くの刺激的な議論がなされたなか、特に印象に残ったのは音楽の作り手であるアーチストの言葉だ。

 基調講演に登壇した小室哲哉氏は、ハードディスク形式で楽曲を保存する手法をいち早く取り入れたことについて「楽曲をテープに保存することは、走っている電車の窓から、過ぎていく瞬間の景色を見るようなもの。比べて、ハードディスクに保存することで全体を俯瞰(ふかん)できるようになった」と振り返る(関連記事:「時代が変わっても音楽家が目指すところ変わらない」――小室哲哉氏)。

 同じく基調講演に登壇した佐野元春氏は、こんなエピソードを披露した。「所属していたレコード会社の役員室に秋葉原で買ってきた『マッキントッシュ』を持ち込み、丸テーブルの真ん中に置いた。役員たちを前に、電源を入れ、これが音楽を変えるかもしれないとスピーチをしたが、誰もパソコンが何なのか、未来にどういう役割を果たしていくのか、ビジョンを持っていなかった」(関連記事:「18歳以下、ライブ無料に」、佐野元春氏が意欲を示す理由

 小室氏、佐野氏はテクノロジーの進化に敏感なアーチストとして知られている。そもそもテクノロジーと音楽は切っても切り離せない関係にある。プログレッシブロック(プログレ)にはシンセサイザーが、ヒップホップにはサンプリング技術が共に大きく寄与している。

 ではアップルが9月9日(米国時間)に発表した腕時計型ウエアラブル端末「Apple Watch」は、両氏のような「作り手」の感性を刺激するだろうか。Apple Watchは楽器そのもの、または楽器の操作端末としての利用が進むと見る向きがある。最前線で活躍するアーチストがApple Watchを見て「面白いことができそうだ」と感性を刺激されるようなら、さらに新たな利用法を見い出すだろうし、それがウエアラブル端末の新たな可能性を切り開くきっかけにもなるだろう。当然のことながら、「作り手」には情報システムの世界で活躍するITエンジニアも含まれる。