通 説 (2)億単位の費用がかかる

 日本版SOX法対応でユーザー企業が気になるのはコスト。「億単位の費用がかかる」というのが通説だ。日経コンピュータが主催する「システム部長会」会員に実施した調査では、09年3月までに日本版SOX法対応に必要と考えているIT関連費用は社内の人件費を含め、平均1億1000万円という結果だった(図2)。

図2●日本版SOX 法対応における、社内人件費を 含むIT 関連費用(2009 年3月までの見込み)
図2●日本版SOX 法対応における、社内人件費を含むIT 関連費用(2009 年3月までの見込み)

 米SOX法、日本版SOX法ともに、主要な対応コストには、(1)監査費用、(2)外部コンサルティング費用、(3)社内人件費、(4)IT関連費用、などがある。企業規模が大きくなり、連結対象企業が多くなると当然、これらの総額は増える。

 米ヒューレット・パッカード(HP)は、米SOX法の適用初年度に当たる2004年に5000万ドル(約57億5000万円)を費やした。04年時点で同社の従業員数は約15万人、売上高は799億ドル(約9兆2000億円)である。対応コストの20%は、文書化をはじめとする内部統制の整備費用や社内人件費など。残る80%は、監査法人に支払う監査コストが中心とみられる。

「日立が100億円投じた」は真実?

 「米ニューヨーク証券取引所に上場している日立製作所は米SOX法対応に100億円を投じた」。これはIT業界内で有名な“うわさ”だ。同社は04年1月から、本社と230社の子会社で1万4600プロセスについて内部統制を整備している。

 うわさの発端は、05年3月11日の第3回内部統制部会での八木良樹 取締役会議長の発言である。同部会委員を務める八木取締役はここで、日立における内部統制の整備の過程を説明。その中で、「日立グループのSOX法対応には、兼任を含めてマネジャ・クラスの担当者1200人が参加している。一人当たり年収800万円と仮定すると、社内人件費だけで約100億円かかることになる」という趣旨の発言をした。

 これをきっかけに、またたく間に話が広がった。正確な計算は難しいが、日立は監査費用に10億円以上支払っており、これにコンサルティング費用やIT投資、社内人件費が加わると考えれば、100億円という数字は当たらずとも遠からずだと言えそうだ。

 日本版SOX法は米SOX法に比べ、監査方法を簡易にするなどの措置が取られており、対応コストは安価になるとみられる。それでも、億単位の費用は避けられないと考えるべきだろう。

 コンサルティング・サービスの費用は、大手の場合、2~4カ月で2000万~3500万円というのが相場。なかには、「一律5億円を提示する大手もある」(業界関係者)という。ほかに、社内の人件費が別途必要になる。内部統制で整備する業務プロセスの決定と文書化の作業だけで億を超える可能性は十分ある。

 内部統制の整備が終わってから負担しなければならないのが、監査費用だ。日本公認会計士協会は内部統制監査の費用について、「通常の企業であれば、財務諸表監査のほぼ倍。金融機関など厳密に監査を実施している場合でも1.3倍くらい」と見積もる。

 監査費用は基本的に人月単価で計算される。内部統制監査の場合、「数字が正しいかどうかという『結果』だけでなく、その数字が出てくる『仕組み』まで調べなければならない」(同協会)ことから工数が余計にかかる上に、単価の高いベテランでないと実施できない。

次回へ