通 説 (3) コンサル不足はすでに深刻

 「日本版SOX法対応支援の依頼をいま受けた場合は、『2~3カ月待ち』をお願いしている」。プロティビティジャパンで最高執行責任者を務める豊倉光伺マネージングディレクターは、こう話す。

 日本版SOX法への対応を効率化する上で欠かせないのが、コンサルタントの存在だ。対応プロジェクトのマネジメント、業務プロセスの分析、監査用文書の作成、IT統制の支援などのサービスを提供する。これらのサービスを展開するコンサルティング会社やITベンダー各社は、「コンサルタントが足りない」と口をそろえる。

 特にその状況が顕著なのは、米アーサー・アンダーセンのリスク・マネジメント部門が独立して誕生したプロティビティの日本法人であるプロティビティジャパン、アビームコンサルティング、KPMGビジネスアシュアランス、ベリングポイントなど監査法人系のコンサルティング会社。各社とも半年以上前から、コンサルタント不足の状態が続いているという。

 ベリングポイントは、昨年80人だったコンサルタントを今年8月までに300人に増やす計画だった。しかし、現状では150人しか確保できていない。このため、「新規顧客からの依頼を断らざるを得ない場合もある」(新井マネージングディレクター)。

 140人のコンサルタントを抱えるプロティビティジャパンも増員を考えているが、「月に200人と面接して、採用できるのは5人程度。しかも、システム監査などの実務経験者を採用した場合でも、内部統制のコンサルタントとして育成するには、どんなに優秀な人材でも半年以上かかる」(豊倉マネージングディレクター)としている。

 IT統制協議会の調査によると、日本版SOX法対象企業の約1割が、コンサルティング会社と契約している。現状で需給関係のバランスが取れていると仮定すると、日本版SOX法対象企業すべてがコンサルティング会社に依頼した場合、単純計算でコンサルタントが現在の9倍必要になる(図3)。これだけを見ると、コンサルタント不足はより深刻化することになる。

図3●日本版SOX法対応のコンサルティング・サービスを提供する主な企業とコンサルタントの人数
図3●日本版SOX法対応のコンサルティング・サービスを提供する主な企業とコンサルタントの人数

量よりも品質が問題に

 だが、少なくともコンサルタントの絶対数が、今後増えてくるのは間違いない。昨年末からNECや日立など大手ITベンダーが参入。続いて、TISや大塚商会、富士ソフトなどのITベンダーが、コンサルティング・サービスの提供を始めた。今後も確実に、新規参入が増えてくるはずだ。

 サービス・メニューを見る限り、各社の内容はほぼ同じ。監査法人系コンサルティング会社と大手ITベンダーでは、料金もあまり変わらない。ただし、各社の持つ経験やノウハウ、コンサルタントの提供するサービスの品質にはバラつきがある。

 コンサルティング会社は、米国証券市場に上場する日本企業の米SOX法対応を支援した経験を備えている。例えば、監査法人ごとに傾向を分析した上で、サービスを提供しているという。「SOX法対応で重要なのは、監査法人対応。監査法人ごとにマニュアルが違い、要求も異なってくるので、対応を変えるのは当たり前」(アビームコンサルティング EBS事業部の永井孝一郎プリンシパル)。

 ITベンダーの中でも、自社で米SOX法対応を経験しているNECや日立なども、監査人との交渉術を心得ている。同時に、対応ノウハウを集約した方法論やツールを持つことを、売り物にしている(図4)。各社は自社のSOX法対応プロジェクトにコンサルタントを参加させ、育成策としている。

図4●米SOX法に対応したベンダーならではの強みの例
図4●米SOX法に対応したベンダーならではの強みの例

 それ以外のITベンダーも、ノウハウの獲得を急いでいる。富士通は昨年秋から日本版SOX法対応を開始。パイロット・プロジェクトを通じてノウハウを吸収している。「子会社展開のノウハウなどは、米SOX法対応企業と遜色ない」(小村プリンシパルコンサルタント)。

 一方で、「ITベンダーの参入により、コンサルの質の問題が浮上している」と、ある監査法人の公認会計士は指摘する。新規参入したITベンダーに、ユーザー企業が文書化を依頼したものの、「完成した文書の出来が悪く、監査にまったく役立たなかった。そこで急きょ、別のコンサルティング会社に再依頼したケースもあった」(同氏)という。

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