第1分科会 各国の取り組み——技術重視からユーザー本位の視点へ

総務省情報通信政策局情報通信利用促進課課長補佐
有馬伸明

 筆者は、昨年に引き続き、今年も日本政府の担当者として参加し、我が国のデジタルデバイド施策について紹介した。ここでは、筆者が参加した各国の取り組みを紹介したセッションについて簡単にご紹介したい。

■韓国では政府内に「デジタルデバイド解消委員会」

分科会の様子(左から三番目が有馬氏)
分科会の様子(左から三番目が有馬氏)

 英国政府の取り組みについては、英国内閣官房のウェンディ・パイアット氏から紹介があり、持つものと持たざるもののギャップが問題として取り上げられた。ただ一方で、低所得層であったとしても自宅でインターネットを利用できれば様々な恩恵が受けられることも強調していた。例えば、低所得のインターネット利用者は、低所得のインターネット非利用者に比べて公共サービスを受けやすいといった調査結果や、30%以上のインターネットユーザーがオンラインで仕事を探しているといった調査結果が紹介された。

 韓国の取り組みについては、韓国情報通信部(MIC)のホン・サチャン氏から説明があった。韓国にはデジタルデバイド施策を強力に推進する仕組みがある。政府内に「デジタルデバイド解消委員会」が設置されており、その下に置かれた「専門委員会」とともに、情報通信部を含む全省庁にデジタルデバイド解消に向けたアクションプランを提出させ、政策調整を行っている。我が国にはIT戦略本部というIT政策全体を統括し推進する部署は存在するものの、デジタルデバイド施策のみをこれほど強力に推進する仕組みはない。ホン氏の説明によると、MICが企画立案、韓国・情報通信部の外郭団体であるKADOが執行という役割分担となっているという。

 日本政府の取り組みについては、u-Japan政策の概要について紹介した後、最近の話題として、電気通信機器のアクセシビリティに関するJISが10月20日に制定されたこと、公共分野におけるアクセシビリティ確保の取り組み、及び障害者のICT利活用支援の促進について紹介した。

 三カ国の施策紹介の後、質疑応答を行ったが、なぜか、日本に質問が集中した。質問の多くは、韓国人以外の聴衆からで、「ブロードバンドの定義は何か」から、「そもそもなぜ高齢者にICTを使わせないといけないのか」といった素朴な疑問まで多岐にわたった。ここでのやり取りの中で特に印象に残っているコメントは、基調講演を行ったオランダ・トウェンテ大学のファンダイク教授の「日本の取り組みは従来の東アジア型アプローチである技術重視であるが、韓国の取り組みはユーザー側に立っており、これまでの東アジア型アプローチとは一線を画する」とのコメントである。確かに、総務省のu-Japan政策を見ると、User-orientedとは言いつつも、依然として技術開発中心のきらいがあることは否めない。しかしながら、我が国でもe-Japan戦略の最終年度を迎え、すでにICTの利活用の促進に政策の軸を移しつつある。今後は、さらにユーザー視点での施策の充実が図られていくことになるだろう。

 なお、ユーザー視点といっても、我が国では、ICTを使うかどうかは最終的にはユーザーが決めること、という暗黙の了解があるが、韓国の場合、全国民がICTを使わなければいけないのだ、というある種の切迫感のようなものがあり、それがここまで強力にデジタルデバイド施策を推進する一因になっているように感じられる。韓国のような「上から」の(高齢者・障害者に限らない)利用者拡大施策が同じように日本で展開できるかどうかは議論のあるところだろう。

 韓国では、なぜこのようにデジタルデバイド問題に熱心なのだろうか。アジア通貨危機をきっかけに、「韓国は、情報化教育の普及による国民の能力向上こそが、韓国経済の成長と安定に寄与するとの考えに基づき、とにかくデジタルデバイドの克服に力を入れている」との分析もある(注)。また、ホン氏によると、韓国はITセクターが他のセクターと比べて遙かに早くスピードで成長しているので、デジタルデバイド問題がとても深刻になってきたといった事情もあるようだ。いまや韓国では、「デジタルデバイドは、単なる不便ではなく、経済的・政治的参加機会の制限など基本的権利の侵害である」として国民に理解されているという。

(注)土屋大洋,「韓国型情報化—デジタル福祉社会を目指して—」 GLOCOM「智場」2002年2月号

2005 デジタルデバイド解消のための国際カンファレンス(韓国・ソウル)