写真●P&Gの「Business Sphere(ビジネス・スフェア)」
写真●P&Gの「Business Sphere(ビジネス・スフェア)」
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 「こんな職種、聞いたことがないな」。最近、取材中にそう感じたことがあった。P&Gジャパン(神戸市)のインタビューで、河合泰郎インフォメーション・アンド・デシジョン・ソリューションズ(IDS)日本統括マネージャーの口から「ビジネスアナリスト」という言葉が飛び出した時のことだ。

 日経情報ストラテジーは、2013年4月号(2月28日発行)で、米フォーチュン誌が選ぶ「Most Admired Companies」の常連であるP&Gやグーグル、アマゾン・ドット・コムなどを「『称賛される会社』に学ぶ」と称して特集した。その取材のため、記者は神戸にあるP&Gジャパンの本社に足を運び、河合マネージャーに会った。そこで、ビジネスアナリストという聞きなれない職種の存在を知ったわけだ。

 取材に出向く前は、様々な話題を軸にP&Gの記事を構成しようと考えていたが、ビジネスアナリストの話が興味深かったため、それを掘り下げることにした。それほどビジネスアナリストの話題は、記者の記憶に残った。以前大阪ガスの取材で、社内のデータサイエンティスト集団が緊急車両の出動体制をシミュレーションするシステムなどを開発し、大きな成果を上げているという話を聞いたことはあった(関連記事1関連記事2)。P&Gのビジネスアナリストは、また別の役割を持っている。

 P&Gでは、ビジネスアナリストはIT部門に当たるIDSに所属している。彼ら彼女らは社内の様々な会議に出向き、参加者の意思決定を支援するための選択肢を提示する。ビッグデータを分析するための知識やスキル、システムを総動員し、“黒子”としてビジネスリーダーの意思決定をナビゲートしていく。

 さらに、ビジネスアナリストの力を最大限に引き出す“場”を日本も含めてグローバルで整えている。それが「Business Sphere(ビジネス・スフェア)」と呼ばれるIT(情報技術)空間だ(写真)。

 ここでは、意思決定に必要なデータを「見える化」できる。ビジネスアナリストはビジネスリーダーの話に耳を傾け、議論の内容に合わせて、適切なデータを見せていく。

 例えば在庫を議論する場であれば、「どんな商品タイプが在庫の積み上げに寄与しているのか」「どれだけの速さで商品が動いているのか」「一時的か恒常的か」といった情報を、必要に応じて素早く参加者で共有できるようする。在庫の増減という事象を深堀することで、確からしい判断に早く辿りつけるようにしている。

 分析の切り口はいつも同じではない。会議の参加者が「この商品が面白い動きをしている」「この日の異常値の原因は?」といった突っ込みを入れると、スムーズにそのデータをドリルダウンして、生データに近づいていく。膨大なデータの蓄積と、ヒトの「勘と経験」をつなぎ合わせ、モノの動き、そしてその裏にある消費者のインサイトに迫る手伝いをする。それがビジネスアナリストの役割といえそうだ。

 P&Gは、こうして蓄積した分析の切り口をグローバルに共有し、必要に応じていつでも引き出せる環境を整備している。河合マネージャーは「会議に加わる全員が同じ結論に、より効率的に到達できるメリットが大きい」と話す。

 ビジネス・スフェアは一つひとつを見ていけば、プロジェクターやデータ、ソフトウエアなどの寄せ集めに過ぎない。しかし、これをソリューションにして、ビジネス変革に生かしているところに価値がある。IT部門の役割はシステムの導入などを通じて、ビジネスのやり方を変えていくところにある。データサイエンティストやビジネスアナリストはその象徴だ。そんなことに改めて気付かされたインタビューだった。