先日取材させていただいたチームラボには一見変わった名前の組織がある。その名も「カタリストDiv.」。取材時、その部署に所属する方は「カタリスト」と呼ばれていた。だが、肩書きではないという。一体何をする人たちなのだろうか?

 カタリスト(catalyst)を手元の辞書で調べると「触媒」「触発者(物)」「促進する働きをするもの」とある。IT業界関係者であれば、米Cisco Systemsのスイッチのシリーズ名を想起するかもしれない。ベースとなったのは同社が買収した米Crescendo Communicationsの製品というのは完全に余談だが、企業買収においても買収後にそれを成功に導くため、カタリストと呼ばれる人が介在するそうだ。

 実際、検索すれば分かるように、カタリストという言葉自体はかなり一般的に使われている。そして、何かを仲介したり、つなげたりといった、おおよそのイメージはほぼ共通だ。

「カタリスト」がシームレスに統合

 最近、製品やサービスを提供する側から、「より良いユーザー体験、ユーザー・エクスペリエンス(UX)」といった表現をよく聞く。UXの基本的な定義については、「第1回 UIはハンガー、ネットの価値をリアルに展開し新体験を創る」で紹介したが、その中で特に気になったのが次の定義だ。

 「質の高いUXを得るには、エンジニアリングやマーケティング、グラフィック&インダストリアルデザイン、インタフェースデザインを含む多様な専門分野のサービスとシームレスに統合されていなければならない」。筆者による意訳なので、原文へのリンクもあらためて紹介させていただく。

 この「多様な専門分野のサービスとシームレスに統合」することは、言うのはたやすいが、それを実現するのはとても難しいように思える。この難しいところを何とかする役割を担うのが、チームラボにおけるカタリストの位置付けのようだ。

 チームラボハンガー(関連記事)のプロジェクトのカタリストである安達隆氏は、その役割を次のように説明する。「顧客とのコミュニケーションやプランニング、実際の現場でのディレクション、PMといった全般をやる仕事になる。ディレクター的な仕事にも見えるが、ディレクターと言うと一人の中心人物がいて、その下にエンジニアがいるという見え方になってしまうので、少し違う。チームラボの場合、チームで物作りをしている。一人がディレクションをするというよりは、みんなで考えて一つの物を作っていく姿勢を重視している」という。

PMの役割もするが中心人物ではない

 非常に幅広い役割を担うカタリストだが、ここでのポイントは「一人の中心人物がいてその下にエンジニアがいるという見え方になってしまうが、そうではない」という点だと筆者には思えた。同社の社員の平均年齢は28歳。多くの日本企業に比べて“若い”という理由もあるだろうが、組織が強固なツリ―型組織ではなく、明確な中心を持たないリゾーム型組織(リゾームは地下茎の意)に近いと感じたからだ。実際、プロジェクト単位で最適なチームを都度組成し、案件を進めていくという仕事の進め方をしている。

 ツリ―型組織の下の方に位置し続ける筆者にとって、いっそこのまま地下にもぐり込んで地下茎の一部になってしまいたいなどと思うことはままあるが、それはさておき、こうしたデザインやエンジニアリング、マーケティングなど多様な専門分野のサービスを統合するという試みは多くの組織でなされている。

 その最も成功している例が、米Appleだろう。前述の記事でもコメントを引用させていただいたが、山下計画 代表取締役 Evangelist & Mentorの山下哲也氏は、「Appleはプロダクトという形で自分たちが求める最高のユーザー体験(UX)がどういうものかをいろいろなところで視覚化している。それはプロダクトでありApple Storeであり、彼らはそれらを通じてリンゴのマークに代表されるブランドを作っている」と説明する(山下氏のUXに関する談話記事)。