スマートフォン/タブレットが業務システムから日常生活まで、あらゆる利用シーンに浸透し始めている。そしてオフィスにはパソコンがあり、自宅にはテレビが置かれ、街を歩けばデジタルサイネージが煌々と輝く。画面を備え、ネットワークにつながるデバイスが生活のここかしこに遍在する状況が当たり前になりつつある。現状それらはただバラバラに存在しているだけのように感じられるが、もっと新しい“何か”がこうした環境から生まれてくるような予感も同時に抱かせる。

 この特集ではそんな期待を込めて、これからのユーザー・インタフェース(UI)、ユーザー・エクスペリエンス(UX)について識者の意見を聞いた。第2回以降で識者の談話を紹介していく。第1回は“少し先”を感じさせる実際の事例からそのUI/UXの考え方などを見ていく。

そもそもUXとは?

 最初に「UXとは何か」を整理しておこう。UXという用語がなぜこれほど使われるようになったのか。一部の専門家の間で使われていた用語が、IT関係者の間にも広く知られるようになったのは、やはり米Appleの存在が大きい。スタートアップの事業化支援やコンサルティングなどに携わる山下計画 代表取締役 Evangelist & Mentorの山下哲也氏は、「Appleはプロダクトという形で自分たちが求める最高のユーザー体験(UX)がどういうものかをいろいろなところで視覚化している。それはプロダクトでありApple Storeであり、彼らはそれらを通じてリンゴのマークに代表されるブランドを作っている」と説明する。

 UIはUXの入り口である。ここではスタンダードなUXの定義として、米国の認知科学者であるDonald A. Norman博士の定義を引用する。意訳すると、「UXとは、エンドユーザーと、企業および企業のサービスや製品との間のあらゆる相互作用を包含するもの」であり、要件は次の二つ。(1)顧客を混乱させずに的確に顧客のニーズを満たすこと、(2)プロダクトを所有する喜びや使う楽しさをもたらす簡潔さや気品があること――だとする。

 さらにNorman博士の定義は、単に顧客の要求をそのまま鵜呑みにするのではなく、「質の高いUXを得るには、エンジニアリングやマーケティング、グラフィック&インダストリアルデザイン、インタフェースデザインを含む多様な専門分野のサービスとシームレスに統合されていなければならない」と続く。原文は米Nielsen Norman GroupのWebサイトで読むことができる。

写真1●「teamLabHanger」のデモの様子
写真1●「teamLabHanger」を使ったデモの様子
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 このUXの定義はあらゆる製品やサービスに当てはまるものだが、現在多くの製品やサービスがITおよび通信と何らかのかかわりを持つようになっている。

 冒頭のスマートフォンやタブレットといった機器のみならず、何らかの手段で通信できる機器は格段に増えている。サービスの中にディスプレイやネットワークが介在することで、これまでになかった新しい体験をユーザーにもたらすことができるようになっているのだ。そうしたUXのヒントになり得る事例の一つがチームラボが開発・提供する「teamLabHanger(チームラボハンガー)」だ(写真1)。