第2回に続き、第3回は識者にこれからのUI/UXを考えるうえでのヒントを聞いた。山下計画 代表取締役 Evangelist & Mentorの山下哲也氏はUXが数値化、定量化できないものであると前置きしたうえで、テクノロジーの進歩は我々が思っている以上に速いこと、自分が最高のユーザー体験だと思うものを実際に体験してみること、そしてそうした中にあって「変わらないもの」がどういうものであるかという感覚をつかんでおくことが必要だと説く。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro
山下計画 代表取締役 Evangelist & Mentor 山下哲也氏
山下計画 代表取締役 Evangelist & Mentor 山下哲也氏

 Donald A. Norman博士の定義では、ユーザー・エクスペリエンス(UX)とはすべてを包含するもの。お客さんが機械やサービスを使おうとする導線から始まり、使った瞬間、使い終わった後の感じ、それに対して、イライラ感がなく、ストレスもなく、「ああ楽しかった」「面白かった」「気持ちよかった」といった満足感や深い共感が得られるもので、例えば機械の形や使いやすさだけでなく、気品や雰囲気も包含する。ブランドイメージを形作るものでもある。

 例えばハリウッドのアカデミー賞会場の入り口の赤じゅうたんに、俳優は黒い高級車、最近だとハイブリッドカーなどで乗り付ける。これもUXで、二つの意味がある。俳優が感じること、そして俳優がそうすることによって周りがどう思うかということ。車であれば移動手段、服であれば例えば防寒といった機能を備えるが、それらを超えて、その機能を使ったことによる影響など、全部含めたものがUX。UXの何が難しいかは数値化できないところ。「いいのか、悪いのか」は機能と違って定量化できない。

 例えばスマートフォンで言うと、カメラの撮像素子が何ピクセルで、薄さが何mmでというように数値化できる部分はあるが、これは機能が主。使ったときの反応速度、使った際の照度、通信の速度など、それらを全部含めてユーザーは「使いやすい」「速い」と感じる。回線が混んでいれば機能としてLTEをサポートしていても速いとは感じられない。どれ一つ欠けても気持ちがいいUXは成立しない。そうすると数値化は難しい。

テクノロジーの進化はリニアではない

 少し先のUXを考える際、例えばテクノロジーやエンジニアリングについては数年先を予測して、数値化したうえでロジックを組んでいける。ただ、多くの人はリニアに進歩していくような感覚を持っているが、実際はそうではない。テクノロジーは有史以来、進化カーブが2次曲線を描いている。例えば情報量。グーテンベルグが活版印刷を発明してから約100年間は世界で3万冊くらいしか本がない時代があった。それから約500年経過しているが、いまや1.8ゼタバイトもの情報量がある。

 それもこのわずか数年で爆発的に増えた。つまり線形ではない。出版物が出て、輸送手段が発達し、ラジオやテレビが登場し、そして大容量データが遠隔から送られるようになり、ICも安くなり、スマートフォンが登場し、といった個々の事象が組み合わされて、どんどんジャンプしている。そして次のジャンプはもっと大きくなる。2乗、4乗と乗数で伸びていく。おそらく我々の現実の進め方とはギャップがある。