画面を備えた複数のデバイスを使う提案や製品の興味深い例として、デザインとエンジニアリングの両方の視点から物作りに取り組むクリエイティブチーム takram design engineering代表の田川欣哉氏は、2012年9月13日に価格と発売日が発表された任天堂のゲーム機「Wii U」を挙げる。

 Wii Uは、テレビに接続するWii U本体と、コントローラーもしくは独立したゲーム機としても使える「Wii U GamePad」で構成する。田川氏は、テレビとWii U GamePadは、ただの二つの独立した画面ではなく、テレビの大画面に対してGamePadの小画面がどういう方向で、どこを向いているかをゲームシステム側が知り得ると説明。こうした発展が、新しいユーザー体験を生む説く。以下談話形式で紹介する。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro
takram design engineering(タクラム・デザイン・エンジニアリング)代表 田川欣哉氏
takram design engineering(タクラム・デザイン・エンジニアリング)代表 田川欣哉氏

 画面を備えたデバイスを複数使う提案や製品で、最近興味深いと思ったのは任天堂の「Wii」の後継機「Wii U」(製品のURL)。テレビの大画面をメイン画面として遊びながら、手元の機器(Wii U GamePad、以下GamePad)をサブ画面としても使えるし、GamePadをテレビから切り離したところに持っていくとゲームを中断することなく、遊んでいた画面をそのまま手元のGamePadに引き継げる。いわゆるマルチモニター、マルチスクリーンをテーマにしたプロダクトの例だと思うが、ここまでは普通の発想。

 Wiiは、テレビとコントローラー(Wiiリモコン)の位置関係をシステム側が知り得る点で興味深いデバイスだったと思う。テレビ側に設置するセンサーバーには赤外線発光素子が二つ載っているが、それをWiiリモコン側の小型赤外線カメラでとらえることで三角測量し、位置を捕捉するのがWiiのテクノロジー。

 一見似ているようなシステムとして米Microsoftの「Kinnect」があるが、Kinnectは赤外線のドットパターンを照射して、その反射を赤外線カメラで見る空間の3D認識技術。Wiiは3Dを認識しているわけではない。Wiiリモコンがテレビの面に対してどういう角度でどっちを向いているのかということを捕捉するためのシンプルなものだが、それだけでも例えば「振るとそこでテニスボールが打てる」ということができた。それが新鮮だった。

 Wii UのGamePadは、Wiiリモコンが発展したものとして、さらにタッチパネルの画面が加わっている。面白いのは、GamePadとテレビを組み合わせたとき、それぞれが持つ画面はただの二つの独立した画面ではないということ。テレビの大画面に対してGamePadの小画面がどういう方向で、どっちに向いているのかということをゲームシステム側が知り得る。これはとても大事な点だ。

 一般にマルチモニター、マルチスクリーンと言うと、クラウド経由でデータを取得してそれらを複数の画面に写すといったイメージがあるが、我々の住んでいる物理世界の中で、このデバイスはどこにあってどっちの方向に向いている、ということは互いに分からない。分かってもせいぜい同じ無線LAN上に2台あるといった程度だ。