2012年6月6日、IPv6普及のための世界規模のイベント「World IPv6 Launch」が始まった。同時期に米グーグルは、独自の基準でIPv6の接続性に問題があると判断したネットワークをリスト化。リストにあるネットワークから同社の権威DNSサーバーに名前解決要求があっても、IPv6アドレスを示すAAAAレコードの値を応答しないという運用を始めた。
グーグルがこうした対応を始めたのは、IPv4/IPv6両方に対応したWebサイトに接続する際に、「一部のユーザーに接続の遅延や失敗などの不具合が生じるケースが増える可能性」のあることが以前からわかっていたためだ(関連記事)。これは「IPv6-IPv4フォールバック問題」などと呼ばれ、World IPv6 Launchに先立つこと約1年前、2011年6月に開催されたWorld IPv6 Dayのころにも話題になっていた(関連記事)。
World IPv6 Dayは1日限りのIPv6対応だったのでまだ問題は少なかったが、World IPv6 Launchは2012年6月6日以降、長期的にIPv6に対応し続けるというものなので、遅延などが起こるユーザーへの影響も1日限りでは済まない。グーグルのように、「ユーザーがWebサイトへ1秒でも速く接続すること」がビジネスに直結する会社としては、何らかの対策を取っておきたいということだろう。
そこでグーグルは自社のWebサイトなどへのユーザーのアクセスを分析し、接続にかかる時間、接続に失敗する確率などのデータを集め、そのデータを基に同社が「IPv6の接続に問題あり」と判断したネットワークのリストを作成した。この問題のあるネットワークのリストは「Resolvers to which Google may not return AAAA records.」(グーグルがAAAAレコードを応答しない可能性のあるリゾルバー)としてインターネット上に公開されている(グーグルの公開しているリスト)ため、ほかのコンテンツ事業者も利用することが可能だ。
このリストに載っているIPv4アドレスのキャッシュDNSサーバーからDNS要求があっても、グーグルの権威DNSサーバーはAAAAレコードを返さない(AAAAレコードはIPv6アドレスの情報を表すレコードだが、その問い合わせはIPv4対応のDNSサーバーから、IPv4パケットを使ってなされることが多い)。言い換えると、グーグルのWebサイトはIPv4/IPv6両対応にもかかわらず、リストに載ったネットワークにつながるエンドユーザーからはIPv4にしか対応していないように見える。IPv6-IPv4フォールバック問題は、IPv6の接続がうまくいかなかった場合に、IPv4への切り替えに時間がかかったり、失敗したりするというもの。最初からIPv4でしかやりとりしないようにしておけば、フォールバックも起こらないというわけだ。
自分の契約しているプロバイダー(ISP)がリストに含まれていたとしても、グーグルのコンテンツは問題なく利用することができる。同社の権威DNSサーバーは、IPv4アドレスを表すAレコードはこれまで通り返信してくれるので、IPv4インターネットを介して接続すればよいというだけのことだからだ。現時点では世の中に、IPv6でしか接続できない商用のWebサイトはほぼないので、エンドユーザーのインターネット接続環境には、ほとんど影響はない。また、グーグルと異なり、こうしたリストを採用しないでこれまで通りAAAAレコードの応答を返してくるWebサイトなら、IPv6での接続も可能だ。
当該のリストには、2012年6月30日時点では220個のネットワークが登録されており、中には日本のネットワークが数多く含まれている。IPv6-IPv4フォールバック問題は、IPv6とIPv4両方で接続が可能になっている端末なら、世界中どこでも起こりうる。ただし、日本では特に発生率が高いと指摘されているためだ。国内のアクセス回線として大きなシェアを占めるNTT東日本/西日本(NTT東西)の「フレッツ 光ネクスト」や「Bフレッツ」では、IPv4インターネット接続サービスだけを契約しているユーザーに「フレッツ網内のサービスだけに利用する、IPv6インターネットには接続できないIPv6アドレス」を割り当てているからだ。
グーグルの対策とは別に、日本国内ではプロバイダー各社も対策に乗り出している。プロバイダーのキャッシュDNSサーバーに、AAAAレコードをエンドユーザーに送らないようにする「AAAAフィルター」という仕組みを入れるのだ。日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は、加盟プロバイダーとともにAAAAフィルターの方式を5通りに整理。どのプロバイダーがAAAAフィルターを入れているかも公開している(JAIPAのWebサイト)。