みなさんは、2011年6月8日に世界規模のIPv6運用試験である「World IPv6 Day」というイベントが開催されることはご存知でしょうか。「IPv6はIPv4の次期バージョンのインターネット基盤プロトコルである」ということは、最近IPv4アドレス枯渇に関連する記事が増えてきたのでご存知の方も多いでしょう。1ヵ月半ほど前の4月15日、APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)は彼らが持つIPv4アドレスの在庫が枯渇したと発表しました。これで現在のインターネットユーザーがすぐに影響を受けるかというと、そうではありません。しかし、将来的にインターネットで利用するアドレスが次第にIPv4からIPv6に変化していくことは間違いないでしょう。

IPv6移行に向けて大規模試験を実施

 では、インターネットでIPv6を利用する準備はできているのでしょうか。日本ではIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースIPv6普及・高度化推進協議会がIPv6の普及活動などを実施してきました。これらの活動は各種アプリケーションやOSなどへのIPv6標準搭載の推進に、一定の成果があったと言えるでしょう。一方、これとは別に商業的な面でもIPv6の標準採用は進んでいます。例えば、よく知られているところではNTT東日本/西日本(NTT東西)のフレッツ網で提供するサービス「フレッツ・スクウェア」でIPv6を利用していますし、Windows 7/VistaではデフォルトでIPv6が有効です。

 このようにIPv6の採用は徐々に増えつつありますが、現状では「広く普及している」とは言い難いのも事実です。その原因はいろいろ考えられますが、一つには「現状で問題なく動いているIPv4インターネットと同じ品質で、IPv6インターネットのサービスを提供できるのか?」という不安があると思います。品質を確認するためには、やはりある程度の検証が必要です。ところが現在のインターネットには、多様なハードウエアとソフトウエアがつながっており、バージョン違いまで考えるとその数は膨大です。一つ一つ検証するのは不可能に近いといえるでしょう。

 以上のような背景から「現実のインターネット環境で大規模なIPv6実証実験をして、問題点を洗い出そう」という動きが出てきました。これが「World IPv6 Day」の開催につながりました。現在、米Google、米Limelight Networks、米Facebook、米Akamai Technologies、米Yahoo!などのコンテンツ事業者が主導して準備を進めています。2011年6月8日、日本時間の9:00から24時間、彼らのメインコンテンツを提供するサーバーにIPv6アドレスを付与し、DNSサーバーにもAAAAレコードを登録してデュアルスタック環境でサービスを提供するという実験です。コンテンツ事業者を中心に全世界で220以上の企業・団体が参加を表明しています(ISOCのWorld IPv6 Dayのサイトと、日本語のWorld IPv6 Day情報サイト)。

試験期間中、エンドユーザーの通信に影響が出る可能性も

写真●インターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸さん
写真●インターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸さん

 現在、コンテンツ事業者やインターネット・サービス・プロバイダーなどは、自社のコンテンツやインターネット接続サービスをWorld IPv6 Dayに向けてIPv6対応させる準備を進めています。では、一般のエンドユーザーにはどんな影響があるのでしょうか。今回は、この「World IPv6 Day」の活動に詳しいインターネットイニシアティブの松崎吉伸さん(写真)にお話をうかがってきました。

 急にIPv6の大規模実験をして、ひとたび問題が起きれば大きな混乱が起きるのではないかと考える人もいるでしょう。しかし、今後IPv6が広まることを考えると、早めにこのような実験をして問題点を洗い出し、対処しておく必要があると賛同する人も多いのです。米グーグルが事前に調査したところでは、IPv6を使ってインターネットにアクセスすることで実際に問題が起こる割合は0.05%未満だそうです(米グーグルのIPv6解説サイト)。この数字には「リダイレクトによって、ユーザーが最初に指定したURLにアクセスしていない」といったケースも含まれています。そのため、本当にIPv6の利用によって問題が出るケースは0.05%よりも少なくなると思われます。

 この0.05%未満という数字を大きい/小さいどちらにとらえるかは、人それぞれです。0.05%という数字を「トラブルの発生率としては無視できるくらい小さい」ととらえるなら、将来的にインターネットの主流がIPv6になった場合を想定してトラフィック動向がどう変化するのか、問題が発生しうるのはどこかなどについて知る機会ができるのはとても有用です。参加団体にとっては、実験といえども自社のサービスに影響があっては困ります。そこで、事前に問題が発生しないかどうか検証を重ね、自社のIPv6対応に問題がないことを確認する良い機会にもなります。