そろそろクラウドブームも終わりに近づいている。こう書くと、「東葛人も遂に宗旨替えか」と言われそうだが、さにあらず。クラウドが当たり前のものになりつつあるから、こう書くのだ。その“当たり前のものになる”を実感したのは、富士通が少し前に公表したIaaSのユーザー事例の話を聞いた時のことだ。パラダイムシフトが今まさに完了しつつある。

 先に少しごたくを並べると、パラダイムシフトを指し示すキーワードの賞味期限は長くて2年だ。メインフレーム全盛の時代からクライアント/サーバー(C/S)システムが主役の時代への移行期の1990年代初頭には、「ダウンサイジング」という言葉が流行った。そして90年代後半、C/Sシステム全盛期からインターネット関連技術が主導する時代への移行期には「Webコンピューティング」がブームとなった。

 こうしたブームが2年を待たずに廃れ、キーワードとしての力を失ったが、その時からダウンサイジングやWebコンピューティングは本物となった。クラウドコンピューティングも同じだ。過去のパラダイムシフトに比べても大きな変動のため、キーワードとしての賞味期限は少し長めだったが、もう間もなく期限が切れる。今年はともかく来年以降は、ITベンダーが「何でもクラウド」的なマーケティングをしていると痛い目に遭うだろう。

 さて、クラウドが当たり前のものとなりつつあることを実感したIaaSの話だが、これは予想外のサプライズがあった。この富士通の「25円クラウド」は、10月1日から正式サービスを始めたが、その前から試用していたユーザーの事例が驚きだった。トライアルユーザーは200社で、7割以上が正式サービスに移行、中には試用サービスの時から本番運用しているユーザー企業もいたという。

 実際どのように使っているのか、あるいは使おうとしているのかだが、まずヘビーユーザーは仮想マシン数で160台、仮想ディスクは数テラバイトを既に使っているとのこと。少し前まで多くのユーザー企業は、他の企業と物理ディスクを共用化することになる仮想ディスクに自社の重要データを入れることはNGだったが、このIaaSを活用するユーザー企業は「OK」のところが多いという。さらに今後の話だが、あるグローバル企業はERPをこのIaaSに載せ、各国の子会社の情報システムを一元化するそうだ。

 まあ富士通のビジネスとして採算に乗るかどうかは微妙だが、セキュリティや信頼性が担保され、料金が期待値に達していれば、ユーザー企業が本格的にクラウドサービスの活用に動くことが明確になった。ちなみに、この手のIaaS活用は、プライベートクラウドを構築する際に選択肢とみなせる。ハードウエアレベルからプライベートクラウドを構築する代わりに、IaaSというパブリッククラウド上に自前のプライベートクラウドを構築しようというわけだ。

 だからITベンダーから見れば、プライベートクラウドのためのITインフラ市場は、既存のプロダクト販売/SIとIaaSで食い合うだろうが、今後は明確な市場として拡大が期待できる。そう言えば、最近オラクルがクラウド専用機を発表したのも、このマーケットを狙ってのことだ。既にシスコとEMC、ヴイエムウェアの3社連合も同様の製品を出荷しているが、今後こうした「クラウド構築のための手間要らずマシン」が、IaaSと競合するという“異種格闘技戦”も始まるかもしれない。

 今回はプライベートクラウドの話を書いているわけではないので、このあたりで止めるが、要はクラウドがビジネスとして本物になってきたということだ。SaaSやPaaSはもちろん、Hadoopなどのクラウド育ちの新たな技術を使ったSIビジネスも本格化してくるだろう。もはや「何でもクラウド」ではなく、多様なクラウド関連市場で戦うべきときだ。ITベンダーは、クラウドブーム終焉後のクラウドビジネスの明確な青写真を早急に描く必要がある。