写真●小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」。JAXA提供
写真●小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」。JAXA提供
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 2010年6月13日、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」(写真)が2003年の打ち上げから約7年をへて地球に帰還し、カプセルの回収に成功した。筆者は部屋の片隅でほこりをかぶっている小冊子を読んでみたくなった。4年ほど前の2006年秋に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)「はやぶさ」プロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授の講演を聞いた時の講演録だ。

 この講演の時点で、はやぶさは既に満身創痍(そうい)だった。ホイールが壊れ、燃料が枯渇しかけた状態で、宇宙空間で漂っていた。川口教授は「2010年に地球に帰そうとしているが、まだまだ困難なことが続く」と率直に話していた。

“着陸失敗”を強調していたマスコミ

 講演録によると、川口教授は「記者会見で、記者たちはフレンドリーに質問してくれるのに、翌朝新聞を見ると“着陸失敗”と書いてある。(見出しを付ける)編集部の人はなかなか厳しい」と冗談交じりに話している。「宇宙開発には税金を使っているので、きちんと説明責任があるのは当然のこと。ただ『失敗したら○億円の損失』という監視的な記事が多いのは少し残念」とも語っていた。

 筆者は再び川口教授にお会いしたいとお願いしたら、快諾をいただけた。インタビューの詳細は、筆者が担当する月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』の連載コラム「私のリーダー論」(10月号=8月29日発売)で紹介する予定である。川口教授は名実共にはやぶさのプロジェクトマネージャーなので、構想から15年、打ち上げから7年にわたる長期プロジェクトを引っ張った過程を存分に語っていただいた。

政治家の間でにわかに高まる宇宙熱

 筆者は紙とネットの狭間でもがく立場なので、「リーダー論」については紙に委ねるとして、ここではそれ以外の「政治論・メディア論」を書きたいと思う。

 2010年6月の“帰還”で、はやぶさに対する関心は一気に高まった。神奈川県郊外の「JAXA相模原キャンパス」にある川口教授の研究室に足を運んだ日も、平日午前にもかかわらず、見学者がひっきりなしに訪れていた。

 国民の間で宇宙開発や科学技術に対する関心が高まることは良いことだが、最近はそれが政治の世界にまで波及しているようである。

 菅直人首相は、はやぶさ帰還の直後の6月14日に川口教授にお祝いの電話をかけた(首相官邸発表)。その後川端達夫・文部科学相が川口教授に会い、祝意を表した(文部科学省発表の大臣談話)。