前々回前回では、11のネガティブ特性の2番目である「主体性がない、受け身である」を説明した。11のネガティブ特性は以下の通りである。

  1. 先を読まない、深読みしない、刹那主義
  2. 主体性がない、受け身である
  3. うっかりが多い、思慮が浅い
  4. 無責任、逃げ腰体質
  5. 本質が語れない、理解が浅い
  6. ひと言で語れない、話が冗長
  7. 抽象的、具体性がない、表面的
  8. 説得力がない、納得感が得られない
  9. 仕事が進まない、放置体質
  10. 言いたいことが不明、論点が絞れない、話が拡散
  11. 駆け引きできない、せっかち、期を待てない

 今回も引き続き、ソフトウエア開発会社A社に所属する板川氏(仮名)の例を取り上げる。板川氏は32歳の課長補佐で、アパレル会社B社から受注したシステム開発プロジェクトのPM(プロジェクトマネジャー)を務めている。今回、初めて大きなプロジェクトを担当することになった。

 筆者は転勤で板川氏の上司となったものの、問題プロジェクトへの対応に追われ、1カ月くらい板川氏の仕事を見ることができなかった。その間に客先であるB社を怒らせてしまい、プロジェクトが大きく混乱したのは前回説明した通りである。

他人の判断を忠実に実行するのが「正しい」

 板川氏はまさに2番目のネガティブ特性である「主体的がない、受け身である」態度をとっていた。客先からの要望やチームメンバーからの提案を受け入れるかどうかを自分で決めることができず、直属の上司や部門の上長クラスなど自分以外の役職者に判断を常に委ねていたのである。

 PMは本来、現場で発生する様々な問題をみずから判断し、解決できる権限を持っている。プロジェクトの現場では多種多様な問題が発生する。PMはそれらの問題を素早く発見し、問題が深刻なものにならないように行動する必要がある。権限を持つのはそのためだ。

 ところが、板川氏はPMを務めているにもかかわらず、そうした行動を採ろうとしなかった。板川氏はこれまで、仕事では「主体的でない、受け身」な態度で一定の評価を受けてきた。このため、自分ではなく他人が判断したことを忠実に実行することが「正しい行動」だと信じていたのだ。

 板川氏はプロジェクトで何かを判断すべき場合でも、「りん議のための文書を提出せよ」「正式な会議をその都度開催して決めろ」とチームメンバーに徹底した。意思決定のスピードは当然遅くなり、課題が積み重なっていった。結果的に、客先であるB社を怒らせてしまったのだった。

いつまでも回答がなく、いら立ちが募る

 筆者がようやく東京に赴任し、プロジェクトの状況をチェックした段階で、B社の怒りは相当なものだった。

 その直前にB社の大沢部長(仮名)は筆者あてに、文書で「諸々の苦情と今後の改善要望」を申し入れていた。「何かを要望しても、回答がとにかく遅い。何度申し入れても、状況は変わらない。こちらの要望が放置されているとしか考えられない」というのが骨子である。

 筆者はすぐに大沢部長を訪問し、今後の改善策を提案した。筆者の提案はなかなか聞き入れてもらえなかった。それでも毎日大沢部長のもとに通って話を聞くことを続けた。すると、いろいろなことが分かってきた。

 今回のシステム開発プロジェクトはB社の社長がトップダウンで決めたもので、B社にとってこれまでにない新たな取り組みだった。B社としては、新聞や雑誌などで大々的にPRしたいと考えていた。

 このようなシステムの開発で失敗は絶対に許されない。大沢部長は大きなプレッシャーを感じていたのである。

 プロジェクトの進捗が気になって仕方ない大沢部長は、板川氏や筆者が所属するA社に対して「進め方をどうするのか」「問題は起こっていないか」「参考になる他社の事例はないか」「今のメンバーで力量に問題はないか」といったプロジェクトマネジメントに関する情報を求めた。同時に「既存機能を見直してほしい」「こうした新機能が欲しい」「リリース時期を見直したい」などの要求を頻繁に出していたようだ。

 ところが、いつまでたっても回答が得られない。大沢部長はいら立ちと怒りを募らせ、筆者に苦情を申し入れた。これが今回の真相のようである。