昨年の5月に,3歳の息子がインターネットのコンテンツで遊んでいるのを見て,本コラムで「3歳児に試みた,超初歩的ITリテラシー教育」という記事を書いた。筆者としては,「3歳児にインターネットはまだ早いだろうけど,Webコンテンツでの遊びを通して,超初歩的なITリテラシーが身に付くのであれば見守りたい」という気持ちだった。

 だが世間では,筆者が想像していたより,もっと普通の出来事であることをそのすぐ後に知った。2007年夏に実施したgooリサーチの「第5回 小学生のインターネット利用に関する調査」によると,インターネットを利用し始めた年齢が「3歳~5歳」とする回答が26.9%に上ったという。これに0歳~2歳の6.1%を合わせると,未就学児の3人に1人がインターネットを体験していることになる。同調査の過去の調査結果を見てみると,インターネットに初めて触れる年齢が徐々に低年齢化しているようだ。

 小さな子どもがいる若い世代の家庭にパソコンとブロードバンド回線が普及していることを考えれば,子どもたちが日常的にインターネットを使うようになるのは当然と言えば当然なのだろう。筆者の息子も5歳になり,子ども向けポータル・サイトにあるゲーム・コンテンツを毎日のように楽しんでいる。3歳の時はマウスの動かし方がたどたどしかったが,今ではそれほど不自由もない(ポインタをミリ単位で位置決めするのはまだ苦手だが)。ブラウザの起動方法やブックマークの使い方など,ゲームを始めるために必要な最小限の操作は,親のやり方を見て自然に覚えた。まさに「習うより慣れろ」である。

 小学校でもパソコンやインターネットの授業はあるが,家庭で楽しみながら初歩的ITリテラシーを身に付けられるのなら,それはそれで良いことだと思う。前述の記事を書いたときは,単純にそう感じていた。

便利さと引き換えに失うものはないか?

 ただ,最近になって少し気になることも出てきた。よく聞く話ではあるが,このまま子どもたちが便利なインターネットに慣れすぎてしまうことへの不安である。例えば小学校でインターネットの授業をすることについて,賛成する親が多数派だが,消極的な親も決して少なくない。有害コンテンツなどの危険を指摘する声が多いのはもちろんだが,「インターネットですぐに答えがわかっても,それは勉強と言えない」といった意見が多い。

 この手の議論を目にすると,いつも思い出すことがある。もう7年も前の話だが,「ただいま,未熟な技術者が急増中」という記事を書くために取材した,ベテラン技術者たちの言葉である。この記事でベテラン技術者は,「初心者にも親切なWindows Serverのユーザー・インタフェースが災いしている。若い技術者がOSの仕組みを知らずとも,いろいろな設定画面を開いていじっているうちに,“なんとなく”設定できてしまうのが問題だ」と指摘していた。当面の問題を解決することはできても,「なぜそうしなければいけないのか,OSの内部やネットワークがどのように動作しているのか」をうまく説明できない技術者になってしまいやすいという。

 つまり,「答え」に最短距離で到達することと引き換えに,「なぜかを考える」など技術者としての基本姿勢を失いかけている,とベテラン技術者は危惧していたわけだ。

 同じことが,早くからインターネットに慣れてしまった子どもたちにも起こりはしないか。そうならないために,ツール(インターネットなど)の正しい使い方を教えることがまず大切だろう。しかし,ベテラン技術者の言葉に説得力があっただけに,本音を言えば筆者も気になっている。