とても残念なことだが,タイトルにあるように,未熟なIT技術者が増えているらしい。かつて,バブルの時代に大量採用したプログラマの技術力不足が問題になったり,オープンシステムやインターネットなどの大きな技術革新が起こったときにも同じようなことが繰り返し指摘されてきた。

 テクノロジが変化していれば常にこうした問題はついて回るものだが,今回取り上げたいのはWindows NT/2000 Serverを使って情報システムを構築・運用管理する技術者たち(以下,Windows技術者とする)の話だ。主にWindows OSを構成(設定)するスキルの問題だと考えてほしい。

 わざわざWindows技術者の話をすることには理由がある。まず,取材の中で未熟なWindows技術者が増えているという声をよく聞くことが一つ。だが,より強く興味を引かれたのは,「技術者に親切なユーザー・インタフェースが,こうした未熟な技術者を生み出しやすい」と考えるWindows技術者が少なくなかったことである。

 単にWindowsの世界には素人っぽい技術者が多いというのではなく,Windowsそのものが技術者(特に駆け出しの技術者)をダメにしてしまうというのだ。

「なんとなく」でも設定できてしまえば満足に陥る

 Windows OSのユーザー・インタフェースが抱える問題点は,逆説的だが「初心者にとても親切」に設計されている点だ(どこまで親切かという点には異論があるかもしれないが,少なくともそれを狙って設計されている)。

 設定画面はボタン操作が多く,メニューのいたるところにウィザード(紙芝居みたいな一連の画面に沿って設定していけば,複雑な設定作業でも比較的容易に実行できる仕組み)やポップ・ヒント(ダイアログ・ボックス内の各項目の意味や入力内容のヒントを表示する仕組み。ダイアログ・ボックス右上隅の「?」マークで起動)が埋め込まれている。技術者がOSの仕組みを知らなくても,いろいろな設定画面を開いていじっているうちに,なんとなく設定できてしまう。

 全くの初心者にとって,マウス操作中心のグラフィカルな設定画面やウィザード,ポップ・ヒントの類はありがたいはずだ。既にWindows OSの知識が豊富な技術者でも,うっかりミスを防いでくれそうである。

 問題は,これからスキルアップしようとしている若い技術者への悪影響にある。彼らが「初心者にとても親切」なユーザー・インフタフェースの使い心地におぼれてしまうと,なんとなく設定作業はこなせるが,「なぜそうしなければいけないのか,OSの内部やネットワークがどのように動作しているのか」をうまく説明できない技術者になってしまいやすい。

 そうなると技術者として致命的だ。これから将来,どれだけ成長できるのか期待しづらい。何かトラブルが起こったときでも,自力では解決できなくなってしまうだろう。なんとなく復旧できたとしても,きっと場当たり的な対処でしかない場合が少なくないはずだ。こうした技術者がじわじわと増殖中だという。

あくまでも技術者としての姿勢が大切

 この問題は,Windowsのユーザー・インターフェースが親切だから悪い,というものではない。あくまでも技術者としての心構えに依存している。ありきたりな言葉に聞こえるかもしれないが,技術者なら常に「なぜ動くのか?」「どういう仕組みなのか?」と考える知的好奇心を持っているべきだ。

 「技術者なら内部の動作をある程度知っているべき」というプライドでもいい。Windows技術者は,この点をより強く意識していないと,未熟なまま成長できなくなる危険性が高い。

 ちなみに,Windowsの親切さにおぼれてしまった技術者は,「なんとなく」や「いつの間にか」という単語をよく口にするという。また,自分がうまく理解できないことに出会うと,すぐマイクロソフトやWindowsが悪いとぼやく傾向があるそうだ。皆さんの周囲にそのような技術者はいないだろうか?

(渡辺 享靖=日経Windowsプロ)