不覚にも驚いてしまった。何のことかと言うと、米オラクルがサン・マイクロシステムズの買収を決めた例の話だ。不覚だったのは、ソフトウエア・ベンダーがハードウエア・ベンダーを飲み込むことを想定していなかったからだ。クラウドへのパラダイムシフトと100年に一度の大不況の二重奏は、これからも想定外の出来事を数多く生み出すだろう。そう日本でも・・・

 後付けで言えば、ERPを持っているとはいえ、オラクルも基本はITインフラのベンダー。その意味では、サンやヒューレット・パッカードなどのハード・ベンダーと立場は変わらない。巨大データセンターにITインフラが集約されていく“クラウド現象”の真っ只中にあっては、ハード、ソフトを問わずITインフラを提供するベンダーはM&Aを通じて規模と戦線を拡大するしか、成長の道筋がないからだ。

 前回書いた「DNAを同じくするサンとシスコ、一つになる日は来るか」に対する答えは「ノー」と出た。ただ、サーバーやストレージ、ネットワーク機器、それにOSやミドルウエア、さらにはITインフラ提供サービス(=クラウドサービス)といった個別市場の垣根が融解し、これまでは平和共存してきた各市場のドミナント企業が、ITインフラ分野での生き残りと覇権をかけて激突する----そんな方向感は間違いあるまい。

 IBM、HP、EMC、シスコ、マイクロソフト、それにオラクル・・・こうして指折り数えてみると、ITインフラを提供する有力ベンダーの数はおそろしく少なくなった。“総合ベンダー化”がクラウド時代への登竜門ならば、もう一段階の再編がある可能性が高い。だとすると、この企業とあの企業の組み合わせが・・・いかん、いかん、そんな予想はもう無用にしよう。

 ところで総合ベンダーというと、富士通やNEC、日立製作所といった国産メーカーの名が浮かぶ。これまでなら“総合”という言葉は、選択と集中が出来ていない企業の代名詞みたいなものだったが、クラウド時代には光り輝くだろうか。うーん残念ながら、国産ベンダーの場合、そうはならない。なんせグローバルで影響力のあるITインフラ製品やサービスは皆無に近いからだ。

 ただ、そうは言っても、各社ともそれなりに巨大な日本の顧客基盤がある。いわゆるSaaS基盤サービスみたいな全く勝算が見えないビジネスでお茶を濁していないで、しっかりしたクラウドサービスを用意すれば、貴重な顧客基盤を防衛し、クラウド時代にひと勝負が打てる。そんなことを考えていたら、NECがまさにそんなクラウドサービスを発表した。富士通も近く同様のサービスを発表するらしい。

 NECの発表で言うと、煎じ詰めれば基幹系システムのクラウド化だ。IBMの「プライベート・クラウド」サービスの発想に近い。独断で話をまるめると、まず顧客にサーバーやストレージなどのITインフラ統合を持ちかけ、その過程で他社のハードを順次パージしていく。さらにデータセンターに預かり、最終的には自社資産のITインフラ上で顧客の業務システムを走らせる。

 もちろん、ITインフラは仮想化してリソースをクラウド化する。多数の業務システムをこのクラウドに乗せることにより、リソースの効率活用を図り規模の経済を追求する。グレート! 正しいシナリオだ。実現できれば、国産ベンダーは少なくとも国内では有力なプレーヤーとして生き残ることができる。

 ただし、“総合ベンダー”ゆえの障害が気にかかる。クラウド戦略を追求すれば当然、ハード部隊やソフト部隊とサービス部隊で利益相反が起きる。それをうまく調整して、素早く動けるだろうか。今まで総合ベンダーはこれで失敗を続けてきた。だから、特定分野に特化したベンダーのほうが、少なくともIT業界では強かったのだ。

 そういう意味からすると、米国のベンダーも総合ベンダーになるわけだから、思わぬつまずきがあるかもしれない。例えばオラクルはどうか。

 オラクルのデータベースのライセンス料金は、IAサーバーのほうがSolarisサーバーより安い。IAサーバーにはSQL Severがあるので、その対抗上の措置だろう。IAサーバー・ベンダーがリプレースを狙う際の格好のツールになるので、サンはオラクルにIAサーバーと同等にするように何度も働きかけていたようだが、オラクルは首をタテには振らなかった。サンを飲み込んだとなると、さっそく利益相反だ。さて、オラクルはどうする。