現在,インターネットのユーザー数は,世界で約10億人と言われている。一方,携帯電話のユーザー数は,世界で約30億人。日本では,携帯・PHSの加入者が1億人を越えて,そのうち8500万人以上のユーザーがメールやコンテンツ・サービスなど何らかの形で携帯電話からネットを利用している。日本では,PCからインターネットを利用しているユーザー数を,そろそろ追い越していると思われる。

 こうした携帯電話からのインターネット利用増加の傾向は,今後世界的に進むであろう。特に,価格の高いPCの普及がネット利用の課題となっている発展途上国では,携帯ネットへの期待は大きい。私は,2010年までに,世界での携帯ネット・ユーザー数がPCネット・ユーザー数を上回ると予想している。

Compact HTMLから10年


図1●Compact HTML
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 1998年のはじめ筆者は,当時の携帯電話のCPU処理速度(1~10MIPS)とメモリー容量(128~512KバイトのRAM)を想定して,携帯電話向けのHTML仕様を考案,「Compact HTML」としてW3C(World Wide Web Consortium) に提案した(図1)。W3Cでは,当時まだ新規機能の提案が目白押しで,PC以外の機器を想定して軽い仕様を作ろうなどという提案は,Compact HTMLがはじめてであった。その後,携帯電話を意識した仕様作りは活発になり,XHTML Basic や xxx Mobile Profile,xxx Tiny といった仕様が多く策定されてきた。

 このとき,10年後に数の上でPCを上回るようになるとは思いもよらなかった。この10年間の技術進歩はめざましい。今では,携帯電話は高機能なコミュニケーション・デバイス「ケータイ」となり,Web機能も,携帯向けのサイトだけでなく,フルブラウザにより一般のサイトも閲覧可能になった。ACCESS では,今後 Widget 機能なども搭載していく計画だ(関連記事)。

 さらに,Linuxなどの高機能なOSが搭載され,高度なアプリケーションを動作させることができるソフトウエア・プラットフォームが整備されつつある。

共通プラットフォーム+オペレータパック

 1年前にも携帯分野についての予想をITpro Watcherに寄稿した(関連記事)。中国での3Gの開始以外は(さすがにそろそろ始まることを期待したいが),だいたい予想通りに進んでいる。ワンセグは,既に1500万台以上出荷され,予想以上に普及が加速している。今後,さらに機能を追加していくには,ケータイのソフトウエアの構造を整理しておくことが不可欠だ。


図2●ACCESS Linux Platform
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 現在,ケータイに搭載されるソフトウエアのボリュームは,ALP(ACCESS Linux Platform)の場合で,1000万行を越えている。これは数年前のパソコンOS,Windows NT 3.x を超えるサイズだと考えられる。ACCESSは,Linux をベースとして,ケータイに必要なミドルウェア,アプリケーションを組み合わせ,拡張可能なモバイル向けのプラットフォームを提供している。これに,オペレータのやりたいサービスを実現するアプリケーションパックを追加することによって,各事業者向けの版が完成するという訳だ(図2)。

 この「共通プラットフォーム+オペレータパック」という考え方は,オペレータとメーカーの双方にとってメリットがある。オペレータは,付加価値部分に注力でき,開発効率をアップできる。メーカーは,横展開が容易になるし,使い勝手など差別化部分に注力できる。LiPSLiMoといった業界団体の動きは,簡単に言えばオペレータパックを作りやすくするための基盤作りであり,この考えと一致している。ALPでは,いわば,共通な機能をVanilla phone (バニラ味)として標準で提供し,それにオペレータ向けのトッピング(オレンジ味など)を追加するというイメージだ。

 さらに,少し将来を考えれば,オペレータパックは,後付けで搭載することも可能になるかもしれない。つまり,標準機能だけのケータイに,オペレータアプリをネット経由やPC経由でダウンロードして追加するという方式である。新規機能の追加もやりやすくなる。セキュリティやユーザー認証の問題など課題はいろいろあるが,実現可能なレベルになってきている。

携帯業界の新たな競争環境


図3●携帯業界の新たな競争環境
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 昨年,新たな注目すべき業界の動きとして,iPhone の登場とGoogle の携帯電話OSへの参入があった。これは,インターネットのキラー・サービスプレーヤが携帯業界に,Vertical Model(サービスから端末・OSまで1社でセットで提供するモデル)で参入してきたように見える。つまり,携帯向けインターネットサービスの奪い合いが本格的にはじまった。年間4~5億台を出荷する携帯メーカー最大手のノキアも自前のサービス「Ovi」をバンドルしはじめた。オペレータ,メーカー,サービスベンダーの三つ巴の混戦が進むと思われる(図3

 ユーザーの視点から見れば,サービスはいろいろ選択肢があった方がよく,端末もいろいろなバリエーションが望まれる。いわゆる電話型の端末に限らない。アマゾンの無線通信機能付き電子ブック「Kindle」は,さまざまなネット端末の可能性を感じさせる面白い例だ(ちなみにKindleはNetFront Browserを搭載している[発表文])。我々は,将来,様々なネット端末をTPO(時間,場所,目的)に応じて,使い分けるようになるであろう。

サービス・プラットフォームとしてのケータイ

 2008年は,ケータイから YouTube が見られるようになったり,Widget 的なサービスが実現されたり,Mobile Web2.0的サービスがはじまるであろう。とはいえ,ケータイの場合,圏外やフライトモードなどネット非接続のケースも多いし,何でもかんでもネット経由というのは,3Gになったとはいえ,通信で待たされると使い勝手が悪い。そこで,端末上のアプリとサーバー側が適度にシンクロ(同期)するというモデルが現実的だ。

 今後非常に大きなユーザーベースを期待できるケータイへのアプリケーション開発者の期待は大きい。何億台もの端末が互いに通信する「ケータイコンピューティング」とでも呼ぶべき新しいソフトウエア市場が出現する。ケータイ向けのサービス・アプリ実行環境としては,現在でも,Webアプリや Java アプリはオープンになっているが,今後,Linux Native アプリ実行環境が徐々にオープンになり,本格的なアプリケーションがどんどん開発されるであろう。ACCESS としては,多くのパートナーと協力して,この方向を推進して行きたい。