1999年頃から日本ではじまった,インターネット機能を取り込んだ携帯電話。現在,既に6000万人以上の人が,メールやブラウザなど何らかのネット機能を携帯電話からアクティブに利用していると言われている。3Gの普及ともあいまって,日本は間違いなく世界をリードする携帯先進国になっている。今では,おサイフ機能やクレジットカード機能,テレビやラジオ,さらにフルブラウザともはや携帯電話というにはいささか抵抗があるぐらい多機能だ。「ケータイ」という多機能コミュニケーション・ツールという新ジャンルが確立した。既に,年間出荷台数でパソコンを上回っている。

第3紀コンピュータは,意外なところからやってきた

 大型(メインフレーム)コンピュータの時代に,パソコンはメインフレームのダウンサイジングからは生まれなかった。汎用マイコンが開発され,最初はオモチャ程度のマシン。8ビットマイコンを使って,わずか8~16Kバイトのメモリーで動くソフトで何ができるのか,と言われたものだ。しかし,ワープロや表計算は確実にビジネスユーザーのニーズを捉え,あとはハードウエアの進化が応用を広げ,今日に至っている。メインフレーム時代がコンピュータ第1紀だとすれば,パソコン時代は第2紀だ。第3紀は意外なところからやってきた。

 ビジネス用途を真に越える個人向けのコンピュータの形は,パソコンが出現したときからのテーマだ。個人ユーザーの一番のキラーアプリケーションは,コミュニケーションだろう。そう考えてみれば,携帯電話が進化するというのは自然な話だ。携帯電話のパケットネットワーク(データ通信)が9.6kbpsの速度しかなく,48文字程度しか表示できない小さな画面でネット接続したところで,どんなサービスが実現できるのか,と言われたものだ。8年前の話だ。しかし,メールやコンテンツサービスは確実の人々のニーズを捉え,その後ハードウエアと通信の進化が応用を広げつつある。誰もがいつでも持ち歩く「ケータイ」コンピュータ,これはパソコンのダウンサイジングからは生まれなかった。まさに,世紀の変わり目だ。

「ケータイ」の今後の進化はどうなるのか

・パーソナライズ

 個人がこれだけ毎日四六時中持ち歩いている機器となると,単なるツールではなく愛着がわいてくる。自分だけの味付けをしたくなる。ストラップにはじまり,カラーバリエーション,カスタムジャケットなどの物理的なカスタマイズ,加えて,着メロ,着ウタ,待ち受け画面の設定,スキンの選択といったソフトウエアの設定は既にかなり広がった。これから本格的に始まるのが,個人の興味に合わせたニュース配信などのパーソナライズされたサービスだ。今後は,プラットフォームソフトが進化して,ユーザーの操作履歴から,自動的に嗜好を導き出すようになるであろう。

・統合コミュニケーション

 ケータイは,日本人の繊細な気の回しに非常に向いている。TPOに応じて,電話やメール,インスタントメッセージ(IM)やボイスメール,テレビ電話まで使い分ける。こららは,最終的には,すべてIPベースで,単なる上位アプリケーションの違いということになるだろう。また,技術的には,SIPプロトコルを利用すると,プレゼンス(ユーザーの状態通知)やさまざまなピア・ツー・ピア機能(ユーザー間での直接情報交換)が実現できる。SNSが本格的にケータイに広がるのも時間の問題だ。

・メディア融合

 ワンセグテレビ搭載の携帯電話が人気だが,まさに究極のパーソナルテレビだ。しかも,通信機能付き。印刷メディアも,ケータイへのデジタル配信には注目している。こうしたメディアの融合は,広告機会を増やすと同時に,後付けビジネスを可能にする。つまり,ユーザーの番組視聴や購読情報から,関連商品の購買につなげるといった具合である。位置情報(GPSを利用)を組み合わせると,地域特性を活かせるので,広告価値はさらに高まり,サービスの多様性は広がる。

・マイポケット化

 今まで別々に持ち歩いていたものが,一つに集約されれば単純に楽である。既に,デジタルカメラや音楽プレーヤ,小型ラジオ,Suicaカードにクレジットカード,などなどケータイに入ってしまった。これは,まだまだ発展途上だろう。××カード,××ポイント,××券,××証,××コード,とありとあらゆる応用がありそうだ。

 以上,4つの方向からケータイの進化をとらえてみたが,これらは密接に関係していて,CPUの処理能力の進化やメモリー技術の進化,ネットワーク速度の進化とも深く関連している。一足飛びには行かないが,着実に進化していくだろう。

ユーザーが選択する時代へ

 しかし,これだけ多機能になったケータイ,万人に共通に必要な新機能が,爆発的に今後も増えるとは考えにくい。むしろ,今後は,セグメント化されたユーザー向けに,いろいろなアプリケーションが開発されるという構図だろう。ユーザーが,使いたい機能,ほしいサービス,買いたいアプリケーションを今以上に主体的に選択するということになる。それでは,これを促進するためには何が必要だろうか?

 まずは,プラットフォームのオープン化。ある意味,パソコンのようにアプリケーションを追加できる仕組みである。ただし,これは,パソコンの場合よりもはるかに複雑だ。アプリケーション同士が複雑に絡みあっている(相互に呼び合う)からだ。ケータイの代表的なアプリケーションのジャンルの一つは,コミュニケーション分野だが,これらのアプリはアドレス帳を利用したいだろうし,着信メカニズムも利用したいはずだ。したがって,こうした機能もAPIとして提供する必要がある。

 次に,いろいろなレベルでのセキュリティ。Web2.0的なブラウザベースのサービスもますます増える傾向にあるが,HTMLやJavascriptは無数の組み合わせがある上に,厳密に規定されていない部分が多く,悪意をもってコンテンツを作成されると防御しにくい。また,ソフトウエアをダウンロードして,ケータイに安全に機能追加するメカニズムも必要である。

 こうした動きは,インターネットの「ベストエフォート型」の考え方が,いやおうなしに,ケータイに入ってくることを意味する。これまでの「電話は確実につながる」という保障型のサービスからすると,かなり異質のものだ。しかし,今後はネットベースの機能が大半を占めるだろうケータイ。このカルチャーギャップをどう克服していくかも,大きな課題かもしれない。

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 2007年は,いよいよ「ケータイ」コンピュータとしての動きが活発化しそうだ。ケータイ向けのLinuxプラットフォーム,中国でも3Gが開始(たぶん),ケータイ向けのGoogleサービス,ケータイと家庭との連携などなど。ACCESS としても,このケータイ向けのソフトウエアを進化させるべく,新規製品・技術に取り組んでいる。引き続き,いろいろと紹介していきたい。