SEマネジャはビジネスとSE育成のキーである。これは筆者の現役時代からの持論だ。SEマネジャが弱いと,システム開発や基盤構築などのプロジェクトはなかなかうまく行かないし,SEも育ちにくい。逆にSEマネジャが強いと,ビジネスや顧客との関係もうまく行くしSEも育つ。

「部下に任せる」に対する読者のコメント

 そのような考えのもとに前回前々回,SEマネジャの方々にぜひ考えてほしいと思い「仕事は部下に任せよ」,「部下に使われるマネジャになれ」と筆者の考えを述べてきた。だが,SEマネジャの方々の受け止め方は,各々の立場や仕事環境によってさまざまだろう。「話は分かるが納得いかない。疑問だ」という方もおられると思う。

 事実,読者から「最近の定義ではマネジメントのあり方について『指示型―>コーチ型―>援助型―>委任型』への変遷を説いているものが出ていますが,意識されていますか?。話す内容はぜひ最先端のものを取り入れてください。委任型でなくてはならない理由はありません」とか「SEマネジャが部下に使われる,部下の救援要求を待つという受身の姿勢で,結果責任・指導責任を取れるのでしょうか? 疑問です」などのコメントもあった。その他にも読者の方々にはいろいろな意見があると思う。

 そこで今回は,読者の方々により理解いただくために,前述の読者のコメントに答えながら,筆者の考えをより詳しく述べてみたい。

知ったかぶり,頭が回らなくなるマネジャ

 読者の方が「マネジメントは指示型......委任型。SEマネジャが委任型でなくてはならない理由はありません」とコメントされているが,筆者はそれにはいささか異論がある。例を挙げて具体的に説明したい。

 あるSEマネジャがいたとする。そのSEマネジャは20人前後の部下を持ち,顧客が8件。地域も東京,神奈川,千葉と広く大企業,中企業などいろいろな企業がある。業界は製造と流通業界。システム開発・導入などのプロジェクトが10件あり,使われているシステムや製品はUNIX,Windows,○○パッケージ,Cisco,Java,HP,UDB,メインフレームなどなど。協力会社も数多くある。このような仕事環境のSEマネジャはどこの企業にもよくいるのではないだろうか。

 彼らがシステム開発のくわしいことや技術的な細かいことについて,部下の仕事をいちいちチェックしたり指示することができるだろうか?いろいろな製品や,システムや,アプリケーションを知り,またすべての顧客のマネジャや担当者の性格などを理解できるのだろうか?

 筆者の経験では,システムや製品や顧客の数が増えれば増えるほど,それは至難の技である。あえて言えば不可能に近い。事実,読者の近くにも次のようなSEマネジャが結構いるはずだ。

(1)自分がわからないシステムや製品や業界でも,格好をつけて知ったかぶりでSEに指示するSEマネジャ。
(2)担当顧客が1,2件なら顧客に顔を出したりSEに仕事の指示をしたりするが,5件,10件となると頭が回らなくなって多くの顧客やSEを放ったらかすSEマネジャ。

 これが現実だ。このようなSEマネジャはとてもSEマネジャと言えまい。単に“シャシャリ出て"きて,できる範囲でやっているだけだ。それよりも「自分はこれでよいのか,職務を全うするにはどうすればよいか」と,知恵と工夫を発揮してマネジメントのあり方を考えるべきだと思う。

 ただ,金融や製造,電力などの大手顧客のプロジェクトを担当しているケースでは指示型マネージメントはやりやすい。だが,注意しなければならないのは,それができるのは自分がSE時代に使った製品やシステムを顧客が使っているうちだけだ。何年かたって自分がわからない製品が多くなると,指示型でやるのはそう簡単ではない。おそらく「委任型でなくてはならない理由はありません」とコメントした読者の方は1~2件の顧客しか持たないケースを想定したのだろうが,その世界でも指示型でやるのは難しい。