前回のブログで「SEマネジャはボックスである。嫌いなことでもはやるべきことはやらなければならないし,自分が好きなことでもボックスとしてやってはならないことはやってはならないのである」という主旨のことを書いた。

上司や先輩に恵まれないと成長は難しい

 これに対し読者の方からコメントをいただいた。要約すると次の通りだ。

 「元SEマネジャであった小生には耳の痛い内容であった。だが,少しコメントさせていただくと,誰しもある日突然SEマネジャになるわけではない。それまで一緒に仕事した来た上司や先輩がきちっと仕事ができる人であれば自然とSEマネジャの正しい仕事の仕方や考え方が身についているはずである。しかし,上司や先輩に恵まれない場合はそうは行かない。部下が正しいやり方,考え方を身に付けるのはそう簡単なことではない。そう考えると,この類の問題は個人の問題としてではなく,組織としても考えるべきではないか」という内容だった。

 ある意味では,SEがSEとしての考え方・心構えや仕事の仕方などを身に付けることは,IT技術力を身に付けるより難しいということだろう。

 このコメントはユーザー企業の方からだったが,ここで指摘されている「部下は上司や先輩に恵まれないと正しい仕事の仕方や考え方が身に付かない,結果として成長し難い。会社として何か考えるべきではないか」という点は,筆者もその通りだと思う。今回は問題提起も含めこの問題について言及したい。

2つのケース

 まず,育成という観点での上司・先輩と部下・後輩との関係についてだが,どこの企業でも若手・中堅SEは,良きにつけ悪しきにつけ上司や先輩の仕事のやり方や考え方を学ぶものだ。この,上司や先輩が後輩に与える影響は少なくない。一般にできる上司や先輩のいる組織では後輩SEは好影響を受けて育ちやすい。だが,読者の方がコメントで指摘されているような,上司や先輩に恵まれていない組織ではなかなかそうはいかない。

 この両者のケースについて以下簡単に説明する。

(1)上司や先輩に恵まれている若手・中堅SEは自然に正しい仕事の仕方や考え方が身について成長する。

 それは日頃の仕事の中で上司や先輩の仕事のやり方や考え方などを見習えるからだ。

 すると知らず知らずの内に「時間厳守は重要だ」「資料の作り方はこうするんだ」「報連相は…」などのビジネスの基本的なことから,「システム開発はああ取り組むんだ」「あんな時はああ判断するんだ」「顧客との交渉の仕方はああするんだ」「提案戦略はああ考えるんだ」「営業とスタンスはこう考えるんだ」など SEとしての実務まで,いろいろなことを学ぶ。

 その上リーダークラスになると「マネジャは日頃ああ考えるんだ」「部下には公平性が重要なんだ」「マネジャはボックスなんだ」などSEマネジャの在り方なども学ぶ。

 このように恵まれた環境にいるSEは,程度の差はあっても仕事にまつわる諸々の事柄について,いろいろな場面で“本物”を自然に学べる。そしてほとんどのSEがそれなりのできるSEに成長する。

 なお,読者の方も心当たりがあると思うが,どこの企業でも「あのグループのSEは優秀だ」というグループがある。きっとそう評されるグループは,ここで言うできる上司や先輩が大勢いるグループだと思う。

(2)次に,上司や先輩に恵まれていないケースではどうだろうか。

 このケースでは,程度の差はあれ若手・中堅SEはなかなか上司や先輩から正しい仕事のやり方や考え方を見習えない。その上,下手をすると上司や先輩の間違った仕事のやり方や考え方を見習ってしまう。

 もちろん,中には上司や先輩を反面教師にして自分で立派に育つSEもいる。しかし,往々に上司や先輩の偽者の考え方を学んだSE,技術偏重のSE,チームワークに弱いSEなどが生れやすい。そして質もばらつく。そんなSEが将来SEマネジャに昇進したり先輩のSEになったとする。すると必然的にいろいろな SEマネジャや先輩SEになる。

 例えば,管理者の基本も知らないSEマネジャ,顧客訪問もやらないSEマネジャ,有言不実行のSEマネジャ,脆弱なSE像を持っている先輩SE,後輩を助けもしない先輩SEなどいろいろな人が出てくる。

 そして彼らが後輩を指導する。後輩がそれを見習う。するとまたいろいろなSEが生まれる。下手をするとこの悪循環が起こりかねない。ろくにマニュアルも読まないSE,顧客に冷たいSE,挨拶もしないSE,技術偏重のSE,ビジネスに弱いSEなどが増える。提案も上手く行かないし,プロジェクトにもトラブルが発生,などいろいろな問題が起こる。

 以上,2つのケースについて述べたが,この様に上司や先輩が後輩に与える影響は良きにつけ悪しきにつけ少なくない。それが引いては顧客との関係や会社のビジネスに影響する。だが残念ながら,現在のIT企業を見ると,企業にもよるが(1)のケースはそう多くない。ほとんどが(2)のケースだ。いろいろな事情があるにせよ,企業としてこれで良いはずがない。読者の方の考えはどうだろうか。

まずやるべきことはSEマネジャの教育

 ではどうするかだが,筆者はそのために企業としてやるべきことは多々あると思う。だが,最低限「SEマネジャ教育」を行いSEマネジャの質を上げることから始めるべきだと提言したい。

 教育の内容は「SEマネジャのあるべき姿や,やるべき基本的事項」はもちろん,「会社の経営方針や問題点」「技術動向や最近のトピックス」「法律関係」「人事ルール」などもやることだ。SEマネジャのあるべき姿や仕事の仕方については「SEマネジャを集めて何かのテーマで数人ずつ討議させその結果を発表させる」「マネージメントのあり方の本を読ませて感想文を出させる」「お客様に何か講演していただく」「優秀な先輩SEマネジャに話させる」「外部研修に出す」などを行うのも良い。

 その教育を毎年やっていけば,程度の差はあってもSEマネジャの視野も広がり正しい仕事のやり方や考え方を身につける。質も上がる。するとベテランSEはじめ若手・中堅SEに好影響を与えるようになる筈だ。ひいてはそれが企業を発展・成長させる。

 このSEマネジャ教育について,現在はどうかというと,一般に歴史のある大手企業は熱心だが,新興企業(俗にいうベンチャ)は必ずしもそうでないように見える。新興企業の中には,SEマネジャに昇進させたら後は教育もせず,上司もろくに指導もしない,そして結果が悪ければそれまでというように思える企業もある。上司に指導力がないのかもしれないが,良く言えばSEマネジャ任せ,悪く言えば放ったらかしだ。それではSEマネジャは個人の努力以外成長のしようがない。SEマネジャの教育もろくにぜず,SEマネジャに職務を全うできる力があると思っているのだろうかと思う。

 いずれにしてもSEマネジャを日頃の多忙さから解放し,SEマネジャのあり方を考えさせる場の提供が重要だ。一堂に集まれば相互のコミュニケーションも深まる。すると自分の見直しも含め何かに気付き,新しい自分創りに向かって努力するなど様々な効果がある。これは筆者の経験からも断言したい。

自分の努力だけで成長できるSEは10%~20%

 と言うと「自分は自分で頑張って育った」「SEの成長は本人の努力の問題だ」などと異論のある人もいると思う。だが,筆者は「それは分かる。ただ,自分の努力だけで成長し,しっかりしたSEマネジャやPMになる人はたかだか10%~20%だ。残りの80%前後のSEはなかなかそうはいかない」と言いたい。

 筆者は以前から日経コンピュータなどで「SE育成のキーは一にも二にもSEマネジャだ」と主張しているが,この10%~20%を60%,70%にするには,企業は「SEマネジャ教育」にもっともっと力を入れるべきである。それが今日の一言である。SEのIT技術教育も重要だが,それだけではSEは育たない。