「SEマネジャはボックスである」---この言葉は筆者の造語ではあるが,筆者がSEマネジャ時代に教訓としていた言葉の一つである。今回はこれについて述べる。

“四角い箱”が象徴する,組織の中で果たすべき役割

 まず,この「SEマネジャはボックス」と言う意味だが,概略次の通りである。会社の組織図では「マネジャ(課長)」を金融システム第一課長,製造グループ担当マネジャなど四角の箱(BOX)で表現する。すなわちボックスである。その四角の箱(BOX)にはシステム開発や部下の育成・管理などなどやるべき職務がある。そして,この四角の箱(BOX)はその職務を遂行するためにあるのであって,決して特定の個人のためにあるのではない。

 具体的には今,金融第一グループのマネジャを馬場史郎がやっていたとする。この馬場史郎は金融第一グループというボックスであって馬場史郎個人ではない。すなわち,仕事をしている時は,馬場史郎は馬場史郎であって馬場史郎でないのである。ボックス(四角の箱)である。

 従って,馬場史郎は仕事をしている時はBOXとしてやるべきことは嫌いなことでもやらなければならないし,また逆に自分が好きだからやりたいと思っても,SEマネジャ(BOX)としてやってはならないことはやってはならないのである。会社から見れば,金融第一グループのボックスの職務ができれば誰でも良いのであって,今はたまたま馬場史郎がやっているのである。

 これがSEマネジャはボックスであると言う意味である。

部下を叱るのは個人としではなく,ボックスとしての役目

 先日,ある企業のSEマネジャの懇親会に参加した時のことだ。あるSEマネジャが「馬場さん,私はSEマネジャを2年やっているのですが,部下になかなか“文句”を言えなくて悩んでいます。部下に「〇〇さん,もっと後輩の面倒を見ろよ」とか『△△さん,遅刻しないで早く来い』とか『●●さんお客様と壁を作っては困る』などと文句を言おうと思うんですが,なかなかできないんです。そんなことを言うと部下がどう思うだろうかとか,部下に悪いのでは…などとつい考えてしまい,なかなか言えません」と真剣な顔をして話した。すると別のSEマネジャも「俺もそうなんだよな。俺は部下に文句を言うのはとにかく嫌いなんだ」と彼に同調した。

 筆者はそれを聞いて「その気持は良く分りますよ。だが,君達の先輩のSEマネジャは何も好きで部下に文句を言っているんではないんですよ。部下をきちっと指導するのもマネジャの仕事だと考えてやっているんですよ。これは好きとか嫌いとかという次元の話はないです」と話し,続けて「SEマネジャはボックスである」という考え方の説明をした。それを聞いた彼らは納得したようだった。

 言うまでもないが,マネジャたる者は部下を叱る時は叱らなければならない。自分は叱るのが嫌いだから止めだということで良い筈はない。だが何処の企業でもSEマネジャの中にはこの親睦会のSEマネジャと同じような悩みをもっている人は少なくない。きっと彼ら彼女等は部下に注意しなければと思ってもできることなら言いたくないと考え避けているのだと思う。

 筆者はそんなSEマネジャには「あなたはあなた個人ではないんですよ。BOXなんですよ」,「自分個人が文句を言うのだと考えるのではなくて,ボックスの〇〇マネジャが言うのだと思ったらどうですか。すると気が楽になり冷静にもなれ迷いも吹っ切れて,文句を少しは言えるようになれますよ」と助言したい。事実,これまで多くのSEマネジャから「馬場さんが言われているように,自分はボックスなんだと考えることによって,気が楽なり文句を言えるようになりました」と言う声を筆者は数多く聞いた。

顧客訪問も営業との交渉も責務,嫌でも務めを果たせ

 これは「SEマネジャ=BOX」の一つの例だが,この他にもSEマネジャの日頃の活動を考えると,いろいろなことが言える。

 顧客訪問が嫌いなSEマネジャも,ボックスならば訪問しなければならないのである。少なくとも「顧客訪問は億劫だ,何を聞かれるか怖い,嫌いだ」などと考えて訪問しないようなSEマネジャは,マネジャ失格である。自分に部下の指導力がないSEマネジャは勉強して指導力を身につけなければならない。また,営業と揉めた時でも,営業の考えに納得できなければ,SEマネジャなら技術屋のリーダーとしての意見を堂々と言わなければならないのである。この他にも色々あるが,これがボックスというものである。

年齢が高いからマネジャになるのではない

 言うまでもないがこの「SEマネジャ=ボックス」という考え方は非常に重要である。SEマネジャは営業マネジャとともに会社のビジネスのキーパースンであり,自分はボックスだと考えてSEマネジャらしい仕事をするかどうか”は,ビジネスはもちろん部下の育成を大きく左右する。特に,サービスビジネス時代はハード時代よりその影響は大きい。

 SEマネジャが弱いといろいろな問題が起こる。例えば、プロジェクトがトラブったり赤字になったりする。またシステムが売れなかったり,顧客から文句をいわれたりもする。そのうえ,部下を特定の仕事に塩漬けにしたり,逆にたらい回ししたりして,部下が育たなかったり部下のモラルを下げたりする。事実それで困っている企業が,IT業界では少なくない。今の時代はSEマネジャの良し悪しが企業に与える影響は,営業マネジャのそれよりも大きいと言っても過言ではあるまい。それだけSEマネジャは重要である。

 だが,ここ数年SEマネジャの方と話したり,彼ら彼女らの仕事ぶりや立居振舞いを見ていると,ベテランのSEとほとんど変らないような人が結構目に付く。きっと彼ら彼女等には自分はボックスという認識はないのだと思う。そして中には部下と技術競争して喜んでいるSEマネジャもいる。また「自分はいい年齢になったから順番で○○マネジャになったんだ」と思っているようにさえ見える人もいる。

 そんな方々を見ると筆者は「彼ら彼女らは,SEマネジャとは何か,ベテランのSEと何処が違うのかなどと考えたことがあるのだろうか?」と思う。もっと言えば,組織図に〇〇マネジャとか名刺に○○マネじゃと載ったのが何を意味するか考えたことがあるのかと言いたい。読者の方々の感想はどうだろうか? 読者の中のSEマネジャの方々は,ぜひ「おれはボックスなんだ」と考えて,自分の現在のあり方を再点検してほしい。決して,○○マネジャと言う名前は自分のためにある,などと錯覚してはならない。

サービス時代のIT企業はSEマネジャにかかっている

 以上色々述べたが,いずれにしてもSEマネジャの方々は「SEマネジャはボックスである」ということを肝に銘じてほしい。これが今日の一言である。

 サービス時代はSEマネジャが強いと営業や経営陣は助かる。技術陣が顧客をしっかり掴む,競合にも強い,プロジェクトも赤字にならない,会社の将来を担うSEもドンドン育つ。逆に弱いとどうなるか。前述のようないろいろな問題が起こる。

 ここで読者の方にぜひ理解していただきたいのは,このSEマネジャが強いか弱いかによるプラスマイナスの差は大きいと言うことだ。多くのIT企業や団体などはSEのスキルだ,資格だ,キャリアだなどとSEの在り方では騒いでも,肝心のSEマネジャのあり方やその強化については無関心だ。そんな現状を見るに筆者は「これで良いのか!」と思う。事実,その重要性を認識しその強化・育成に力をいれている企業はそう多くはない。読者の皆さんの意見はどうだろうか。