ワンセグの本放送が始まって,4月1日で1年が経過した。地上デジタル放送の移動体向けサービスとして,一般への認知も高まり,まずは無事に最初の1年を乗り切ったところと言えるだろう。

 ワンセグを受信できる端末も増えた。主力の携帯電話はもちろん,ノートパソコンや電子辞書などの携帯機器にもワンセグチューナーを内蔵した製品が軒並み登場している。このほかにもカーナビゲーションシステムなどの車載端末,パソコンに接続して使うワンセグチューナーなど,対応機器のバリエーションは着実に広がっている。

 ワンセグの受信端末はテレビ放送を見るためだけのものなのだろうか。放送局によるテレビ放送以外に,増えるワンセグ端末をビジネスに活用する道はないのだろうか。

ケータイで着々と増えるワンセグ対応

 ケータイに着目すると,本放送が始まった時点では2キャリアの3機種だったワンセグ対応端末は1年経った現在までにずいぶん増えた。これまでにNTTドコモが5機種,KDDIのau携帯電話では14機種,ソフトバンクモバイルも4機種を自社のラインアップに並べた。この数字には未発売の機種も含んでいるが,合計20機種以上の携帯電話が市場に出回っていることになる。KDDIのワンセグ攻勢は他キャリアから抜きん出たものがあり,高機能モデルのauケータイを買うとワンセグ機能が付いてくるといった状況になりつつある。

 端末のバリエーションが増えたことに加えて,実装技術などの向上により小型化や軽量化も進み,ユーザーがワンセグケータイを敬遠する理由が減ってきた。「ケータイでテレビなんて見ない」と言い張る人でも,特に価格や端末の大きさに影響がないならば,“付いていて困る”機能ではないはずだ。

 実際,電子情報技術産業協会(JEITA)の「地上デジタルテレビ放送受信機国内出荷実績」を見ると,ワンセグケータイの出荷は急速に伸びている。2006年末までに340万9000台,2007年1月は43万1000台だったが,2月には112万7000台と大きな出荷の伸びを見せている。累計の出荷台数は2月の数値で496万8000台であり,4月時点では500万台をはるかに超えているだろう。ワンセグ対応端末の契約数を公表しているKDDIの資料を見ると,2月末に200万契約を突破。累計出荷500万台のすべてがユーザーの手元に行き渡っているわけではないにしても,すでに数百万台のワンセグケータイが持ち歩かれて使われていると考えられる。

 基本に立ち返ると,ワンセグは放送波を受信してテレビ番組や文字/イメージのデータをディスプレイ上に表示するサービスである。要するに,利用者にパケット料金などのコスト負担を強いることなく,情報を提供できるメディアと言える。携帯電話で使う「サービス」としては珍しく,ユーザーに料金がかからないサービスなのだ。

 放送局が提供するワンセグの映像コンテンツは,現時点では地上デジタル放送と同じ(地上アナログ放送とも同じ)である必要があり,ワンセグ専用の“テレビ番組”はまだ放送できない。一方,文字などを送るデータ放送では,各局が工夫を凝らしている。ユーザーにとっては,ニュースや天気予報などをパケット代なしで見られるほか,テレビ番組に関連した情報を入手することもできる。

放送局だけに使わせるのはもったいない

 すでに数百万台の受信端末があるワンセグだが,記者の頭の中ではコンテンツの送出ができるのは,いわゆる放送局に限られるという固定観念があった。昨年6月に開催された「Interop Tokyo 2006」で,特定エリアを対象にしたワンセグ送出システムの参考展示を見たときも,その思いは変わらなかった(参考記事:「【Interop速報】日立製作所,ワンセグのエリア型放送サービスをデモ」)。無線局の免許を取らなければ,ワンセグの電波を送信できないからである。

 ところが,3月に富士通が開発を発表したワンセグ向けの配信システムについて,担当者に取材をして思いを新たにした。これは,微弱電波という免許不要の電波を使うシステム(参考記事:「富士通,店舗など向け独自ワンセグ・コンテンツの配信システムを開発」,「免許不要のシステムを開発,店舗や遊園地でワンセグ放送が可能に」)。ワンセグのソリューションがぐっと広がる可能性を秘めている。

 このシステムでは電波の到達距離はせいぜい数m程度だが,免許が不要ならば,さまざまな場所や利用形態でワンセグの電波を飛ばすことができる。これから先,ワンセグは携帯電話の標準機能に近づき受信端末の数が増えることはまず間違いない。多くの人が持ち歩いている端末に対して,手軽にエリア限定のワンセグコンテンツを提供できるならば,ビジネスでの利用価値がありそうだ。映像だけでなくデータ放送も使えるため,携帯電話向けWebサイトと同様の使い方もできる。

 微弱電波であっても放送波を使うシステムであり,携帯電話向けWebサイトへの誘導とは異なりパケット代を顧客に負担させずにすむ。また空メールを送るシステムのように,顧客がメールアドレスなど個人の情報を提供する必要もない。顧客の利用への障壁を低く抑えて,情報提供やマーケティングのツールに使えるのだ。

 もちろん,富士通が開発したシステムがすべてと言うつもりはない。このシステムだけで多くのビジネスソリューションに対応できるとも思わない。ただ,ワンセグは100%放送局が使うものではなく,免許を持たない一般企業にも使える道筋があるということが,この開発発表から見えてきたことは確かである。ワンセグは2年目を迎えるタイミングで,まだ小さい芽ながらもビジネス用途へと広がる取っ掛かりをつかんだのではないだろうか。