「現在,地球では1秒間に4人の子供が生まれているが,携帯電話は1秒間に25台売られている」
携帯電話で世界シェア2位,米モトローラのエド・ザンダー会長は1月初旬に開催された「2007 International CES」で,急成長する携帯電話市場をこのように表現していた。同会長によれば,「インドでは毎月600万人,中国では毎月500万人ずつ携帯電話ユーザーが増えている」という(関連記事:「携帯電話は個性示す道具」「全世界で成長続く」--モトローラのエド・ザンダー会長)。
1月25日に発表された米IDCの調査結果によれば,2006年に世界で出荷された携帯電話端末は10億1990万台。前年比で22.5%の伸びとなった。
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図1●携帯電話端末のメーカー別世界市場シェア 2006年第4四半期。米IDC調べ。日本メーカー10社は「その他」に含まれる [画像のクリックで拡大表示] |
だが,ようやくこの状況を変えようとする動きが出てきた。1月22日に第1回の会合が開かれた総務省の「モバイルビジネス研究会」(以下,研究会)だ。研究会で議題となるのは,現在の国内携帯電話産業のビジネスモデルである「販売奨励金+SIMロック」の見直しと,MVNO(仮想移動体通信事業者)参入の促進についてだ(関連記事:携帯電話メーカーの国際競争力「相当落ちている」---総務省が研究会)。
日本の携帯はみんな同じような顔をしている
筆者も齊藤座長の意見に同感だ。海外に行ったとき,仕事柄現地で販売されている携帯電話が気になるのだが,この1年くらいで海外携帯電話は魅力的になってきた。例えば,ソニー・エリクソンの「M600i」のように,シーソー型フル・キーボードや手書き入力機能を備えるユニークな端末が海外では登場している(写真2)。多様な端末を作れない,作らないことは,国内メーカーのマーケティング力や商品企画力の低下を招くのではないだろうか。
W-CDMAを推進するUMTSフォーラムによれば,世界のW-CDMAユーザーは近く1億人を突破する。また,2010年に世界の携帯電話ユーザーは現在の約2倍となる40億人を超え,そのうちの6億人がW-CDMAユーザーになると予測している。今後,W-CDMAの巨大な世界市場が出現すれば,国内メーカーが再度世界で勝負できるチャンスが生まれる。W-CDMAによる捲土重来に備え,国内メーカーは世界で通用する端末の開発力を身に付けるべきだ。
SIMロック解除で産業構造を世界へ開け
そのための第一歩が,世界標準に近づくためのSIMロック解除(SIMロック・フリー)である。SIMロック解除により端末と回線を分離させ,端末の開発を現在の携帯電話事業者(キャリア)主導から,端末メーカー主導へと転換する必要がある。筆者は,端末メーカー主導の方がメーカーの自由な発想を開花させ,その結果として開発力の向上が期待できると考える。
ただし,SIMロック解除の実現は容易なことではない。端末メーカーにとっては“諸刃の剣”となる可能性もある。
まず,SIMロック解除は言わば天動説から地動説への転換のようなもので,産業構造を大きく変える。当然,各方面でさまざまな摩擦が生じるだろう。総務省に寄せられた意見を見ても,「販売奨励金の在り方など携帯電話事業のビジネスモデルは自由な経営判断に委ねるべき」(NTTドコモ),「販売奨励金やSIM機能の在り方については,基本的に市場原理に基づき事業者が個々に判断すべき問題」(ソフトバンク)といったように,キャリアは慎重な考えを示している(いずれも「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」に提出された意見から引用)。
また,SIMロック解除によって国内市場でのメーカー間の競争は今よりも激化するだろう。
世界でSIMロック・フリー端末のビジネスを展開するノキアですら,「SIMロック・フリーの市場が国内で広がれば『(ノキアは)黙っていても儲かる』というようなことはない。むしろ,端末の開発だけではなく,販売力,サービス力,サポート力など,メーカーとしての総合力が問われる」(ノキア・ジャパンの日下部真一マーケティングコミュニケーションマネージャー)とする。つまり,薄型テレビなどの家電と同じように,消費者に向けたメーカー対メーカーの真剣勝負となる。率直に言って,競争から脱落する国内メーカーが出てくる可能性は否めない。
しかし,国内市場で勝ち残った端末メーカーは世界で勝負できる力を身に付けるのではないだろうか。現在のような国内市場向けの「多品種少量」開発から,国内を含めた世界市場向けの「多品種大量」開発へと移行できれば,ノキアやモトローラ,サムスン電子といった世界の強豪メーカーと伍していける。
研究会構成員の一人である佐藤治正・甲南大学教授の言葉を借りるならば,「ネットワークは世界に輸出できない」(関連記事:「ネットワークは輸出できない。だから“IP族議員”が必要」,甲南大の佐藤教授)。国際競争力の観点から考えれば,端末メーカーの企画力,開発力向上こそ重要だ。
モバイルビジネス研究会が報告書をまとめるのは2007年9月。議論の進展を見守りたい。