「ITproフォーラム in 大阪」で講演する佐藤治正教授
「ITproフォーラム in 大阪」で講演する佐藤治正教授
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 通信産業を研究する甲南大学経済学部の佐藤治正教授は9月5日,大阪で開催した「ITproフォーラム in 大阪」で講演し,特定の企業や官庁の利権を代弁する政治家ではなく,「大きな視点で日本の国際競争力を考えられるような“IP族議員”が必要」と主張した。

 IPはもちろん「Internet Protocol」(インターネット・プロトコル)のことで,IP族議員とはやや皮肉を込めた表現だろう。同教授は「電話や放送,新聞,小説など,多くのメディアがIP網に乗る時代には,電話族議員や放送族議員ではなく,業界全部を見てくれるIP族議員がいたらいいと思う」と述べた。

 佐藤教授は総務省が主催する「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(通称:IP懇談会)などに参加する競争政策の専門家だ。同教授は「通信業界の競争の形態が変わってきた。コップの中での通信事業者同士のパイの奪い合いから,回線の上下の事業者と協働する形態の競争に変化している」と指摘。回線事業だけで収益を上げようとするのではなく,回線を利用した新しいビジネス・モデルを立ち上げることが重要であると強調した。

 回線の上下の事業者とは,回線サービスでコンテンツやアプリケーションを提供する会社や,回線の端末機器メーカーなどのこと。つまり,回線と動画配信サービスや,回線と「iPod」のような端末機器を組み合わせた新しいビジネスの創出が求められているという。

 なぜ回線単体ではなく,コンテンツやアプリケーション,端末との組み合わせが重要なのかと言えば,それは「ネットワーク(回線)は世界に輸出できない」(佐藤教授)からだ。そこで,国内では安価で高品質の回線を提供しながらも,その上下のコンテンツやアプリケーション,端末の国際競争力を高めることが必要であるとする。

インフラ競争よりサービス競争を

 佐藤教授は携帯電話産業の競争についても触れ,そのカギを握るのが「MVNO」(仮想移動体通信事業者)であると説明した。MVNOとは携帯電話インフラを持つ事業者からインフラを借り受けて携帯電話事業を提供する企業。今後,MVNOの登場が本格化すれば,競争の促進が予想できる。

 ただし同教授によれば,単にインフラを再販するMVNOよりも,インフラと位置情報などのさまざまな付加価値サービスを組み合わせるMVNOの方が望ましい。「インフラ競争ではなく,サービス競争であるべき。電話料金が3割下がることよりも,新しいビジネスが出てくることの方が競争としては良い」(佐藤教授)。MVNOによって,インフラを持っている事業者では発想できない新しいアプリケーションの出現を期待しているという。

 また,佐藤教授は携帯電話業界で問題になっている販売奨励金や「SIM(Subscriber Identity Module)ロック」にも言及。「そろそろ議論する時期だなと考えている」とコメントした。