YouTubeを活用するパリス・ヒルトンさん。ヒルトンさんはYouTubeに専用バナー付きの「ブランド・チャンネル」を開設している。なお,ブランド・チャンネルの開設は有料である
YouTubeを活用するパリス・ヒルトンさん。ヒルトンさんはYouTubeに専用バナー付きの「ブランド・チャンネル」を開設している。なお,ブランド・チャンネルの開設は有料である
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「僕は写真もビデオも録音テープも全部OKなんで,是非皆さんインターネットにアップロードしてください」

 今年の7月末に香港で開催されたアニメのイベント「香港動漫節」で,ゲストとして登壇した声優の古谷徹さんはこう語っている。古谷さんは「機動戦士ガンダム」の主人公アムロ・レイ役で有名な方。そして古谷さんの“アップロード許可発言”に応えるかのように,人気の動画共有サイト「YouTube」には古谷さんを撮影した多数の動画が観客の手によってアップロードされている。ちなみに,古谷さんは自らプログラミングをたしなむほどパソコンに詳しい人だ。

 その後しばらく経った8月中旬,米国の“セレブ”として有名なタレント,パリス・ヒルトンさんがデビューCDのプロモーションのために来日。東京都内でさまざまなイベントを開催した。ここでも注目したいのはYouTubeだ。ヒルトンさんは,来日中の様子を撮影した動画を自らYouTubeにアップロードしている。イベント中にもヒルトンさん自身が,「この様子をYouTubeにアップするから,YouTube.comで見てね」と宣伝するほどだ。

 芸能人だけではない。ソフトウエア開発ツール・ベンダーの老舗である米ボーランドは,8月に発表した新製品「Turboシリーズ」の広告をYouTubeに投稿している。Turboシリーズは主にプログラミングの初心者向けツール。同社は「プログラミング人口を広げるためにいつもいろいろな方法を考えている」(デベロッパーツールズ事業本部の藤井等マーケティングディレクター)とし,YouTubeへの広告動画投稿もその一環だという。

 これらの事例から見えてくるのは,早くも動画共有サイトを利用するマーケティング活動が始まっているということだ。

 古谷さんやヒルトンさん,ボーランドの例はインターネットの口コミ効果,いわゆる「CGM」(Consumer Generated Media)による情報の伝播を狙った典型だろう。先日ITproに掲載した記事「【米国最新事情】始まった“YouTube騒動”第2幕,『ターゲットは日本人ユーザー』」でも言及しているが,先進的な企業はYouTubeなどの動画共有サイトを製品キャンペーンなどに積極活用しているのだ。

 YouTubeなどを使えば動画配信自体にかかるユーザー側のコストはほとんどゼロ。少し前までのように動画配信サーバーを用意したり,動画配信の有料ASP(Application Service Provider)サービスを使うといったコストは一切不要である。古谷さんのように「動画を撮ってアップロードしてね」と消費者やユーザーにアピールすれば,動画を作成するコストすら省けるかもしれない。投稿した動画が人気を呼べば,ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス),「はてな」のようなソーシャル・ブックマークを通して,ネット中にその動画の評判が広がってゆく。

 ブログやSNSが重要なマーケティング・ツールと見なされているのであるから,動画共有サイトの利用もネット文化に理解のある企業から広がってゆくだろう。自社のテレビCMを自社サイトで公開する企業であれば,それらのCM動画をYouTubeなどへ投稿するだけである。もしYouTubeの画質に不満があれば,より高画質で無料の動画共有サイト「DivX Stage6」を使えば良いのだ(関連記事)。

 NTTレゾナントと三菱総合研究所が7月に実施した「第4回ブロードバンドコンテンツ利用実態調査」によれば,既にブロードバンド・ユーザーの3割が動画共有サイトの利用経験を持つ。しかも利用者のうち4割が動画共有サイトに週1回以上アクセスしている。昨年末に登場したばかりにもかかわらず,動画共有サイトのメディアとしての定着ぶりが伺える。

 このような潮流から考えれば,近い将来,高い広告費を払ってTVで放映するためではなく,YouTubeやその類似の動画共有サイトに投稿するためにCMを作成する企業が増える可能性は高い。“広告の王者”テレビCMが凋落し,動画共有サイトを活用したマーケティングが勃興する。このような新旧の入れ替わりが起こるかどうか見守りたいところだ。