図●総帯域幅の解釈については意見が分かれる(総務省の「モバイル接続料算定に係る研究会」の資料から抜粋)
図●総帯域幅の解釈については意見が分かれる(総務省の「モバイル接続料算定に係る研究会」の資料から抜粋)
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 日本通信は2013年5月14日、NTTドコモの携帯電話網のパケット接続料を巡り、総務大臣の裁定を求める申請を提出したと発表した。パケット接続料とは、MVNO(仮想移動体通信事業者)が携帯電話事業者から設備を借りる際に支払う料金のこと。

 パケット接続料は、設備費用(原価+適正利潤)をトラフィック(通信量)で除算することで算出しており、日本通信が契約する「帯域幅課金」の場合は「総帯域幅」に占める10Mビット/秒当たりの単価で算出している。日本通信は、NTTドコモがこの「総帯域幅」の解釈を変え、前年度(2011年度)と異なる算定式を適用して2012年度のパケット接続料を総務大臣に届け出たことを問題視している。

 総帯域幅の解釈には、(1)各通信設備の伝送容量の総量(基地局側帯域)、(2)インターネット接続などに利用するパケット接続装置の伝送容量の総量(ISP側帯域)などがある()。ただ日本通信とNTTドコモの相互接続では、(3)基地局側帯域幅比率とISP側帯域幅比率の平均値が採用されてきた経緯がある(関連記事:紛争が絶えない携帯電話の接続料問題)。

 NTTドコモは今回、(2)のISP側帯域を適用したパケット接続料を総務大臣に届け出たもようだ。2012年度のパケット接続料自体は、分母のトラフィックが急増しているため、2011年度に比べて下がった。だが日本通信によると、総帯域幅の解釈を(3)から(2)に変えることで、接続料を1.7倍程度、押し上げる効果があるという。

 パケット接続料自体が下がっているので問題ないとの見方もあるが、大きな誤解があると日本通信側は反論する。「LTEの普及・浸透により、NTTドコモにおける平均通信速度は2008年度から2012年度にかけて約5.8倍に伸びている。MVNOが同等なサービスを提供するには約5.8倍の帯域が必要で、逆算すると実際には値上げになっている。こうした状況にもかかわらず、NTTドコモの今回の申請を認めれば、MVNOの事業モデルが完全に潰されることになりかねない」(日本通信幹部)としている。

 日本通信は2012年4月にNTTドコモを相手取り、2010年度と2011年度のパケット接続料の算定式が両社で合意した内容と異なるとして、従来通りの履行を求める訴えを東京地裁に起こしている(現在も係争中、関連記事:日本通信が接続料算定式巡りドコモを提訴)。

 総帯域幅の解釈については、総務省が2010年3月に策定した指針「第二種指定電気通信設備制度の運用に関するガイドライン」にも明記されておらず、紛争の種となっている。総務省は昨年から今年にかけ、「モバイル接続料算定に係る研究会」を開き、総帯域幅の解釈について議論したが、通信事業者間で意見が一致せず、結論は先送りとなった経緯がある。

 電気通信事業法の第35条第3項には「通信事業者の通信設備との接続に関し、当事者間の協議が調わないときは、総務大臣の裁定を申請できる」とする規定がある。日本通信はこの規定に基づき、「総務大臣による裁定」を申請した。総務省は今後、NTTドコモから意見を聴取し、双方の主張を踏まえた上で裁定案を作成。電気通信事業紛争処理委員会に諮問して審議・裁定を進めることになる。

■変更履歴
公開当初、第4段落で「基地局側帯域を適用した」としていましたが、正しくは「ISP側帯域を適用した」です。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。 [2013/05/15 9:50]