写真1●ソフトバンクの孫正義社長
写真1●ソフトバンクの孫正義社長
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 ソフトバンクは2009年3月16日,総務省で議論している「電気通信市場の環境変化に対応した接続ルールの見直し」(関連記事)について記者説明会を開催した。会見には孫正義社長が登場(写真1)。同日,開催された総務省の合同公開ヒアリング(関連記事)で陳述した意見を改めて強調した。

 具体的には,「ローミングの義務化」「携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)に伴うメール転送サービスの実現」「電話番号によるメール接続の義務化」「NTT東西の請求書への回線名義人の記載」「請求先住所や名前などによるADSLの申し込みの実現」「NTT東西の局内にあるMDF(主配線盤)ジャンパ切り替え工事のコスト低減・期間短縮」「ドライ・カッパー接続料の低廉化」「0AB~J番号の開放(番号の割り当て基準の緩和)」などを要望した。会見後の主な質疑応答は以下の通り。

数多くの要望を出しているが,最も重要なものは。

 すべてだ。社内調査の結果,公正競争の阻害要因が全部で3150件あった。本当はすべて要望したいところだが,その中から選りすぐったものが今回の要望になる。ぜひ実現してもらいたい。

ソフトバンクモバイルの接続料の高さに一部事業者から不満の声が出ている。

 接続料格差はコスト格差が原因で生じている。コスト格差が生まれる理由は二つある。一つは,(電波の距離が飛びやすい)800MHz帯の周波数の有無。800MHz帯の周波数を利用しているとコスト面で有利になる。当社の試算によると,2GHz帯と800MHz帯で同じカバー・エリアを実現しようとした場合,2GHz帯の方が設備投資として8000億円程度余計にかかる。10年で割ると年間800億円程度の不利になる。

 もう一つは,ユーザーのシェアが高いと設備の調達などでスケール・メリットが働き,コスト面で有利になることだ。NTTドコモやKDDI(au)は800MHz帯の周波数を利用していることに加え,ユーザー規模が我々の2.5倍や1.5倍である。ユーザー当たりのコスト単価は安く済んでいるはずだ。NTTドコモと我々の接続料格差は現在28%だが,全事業者にフェアなルールを導入すれば,事業者間の格差がこの程度で収まるはずがないと思っている。

 しかも一説によると,NTTドコモの接続料原価には営業費用が30%も含まれていると言われる。その説が本当かどうか分からないが,こうした実態を今回の議論で明らかにすべきだ。なお,我々の接続料にも外部要因コストという名目で営業費用が含まれているが,10%程度に過ぎない。我々は(接続料算定の詳細を)堂々と公開する準備がある。これまでは要求されていなかったので公開していなかったが,公開することに何も後ろめたいことはない。

 我々の要望は移動体だけでなく,固定の接続料も加えてもう一度検証すること。(合同公開ヒアリングの議論では)固定の接続料の検証はもう十分としていたが,我々の調査では海外の接続料水準に比べて移動体は平均より低く,固定の方が平均より高い。日本の移動体接続料は固定接続料の4倍だが,欧州の多くの国では10~15倍程度の格差がある。固定の接続料はもっと安くなるはずだ。

NTT東西は「ソフトバンクモバイルの自網内定額(ホワイトプラン)が他社からの接続料収入を原資に実現している」と不満を述べている。

 我々だけでなく,他事業者も「無料通話分」として無料通話を導入している。消費者にアピールするために無料サービスを増やすこと自体は健全な競争。これと接続料は全く別の問題だ。

ローミングの義務化については「設備投資のインセンティブをそぐことにつながる」という反対意見も出ている。

 ローミングを義務化しても設備投資のインセンティブは100%機能する。我々は顧客がNTTドコモのネットワークを経由して接続した場合,その通話料収入をすべてNTTドコモに渡しても構わない。NTTドコモにとっては設備の稼働率が高まり,収入も増える。逆に我々からすると,そういう地域ばかりであれば収入が1円も増えない。できるだけ自分のネットワークを使ってもらおうとするインセンティブが働く。

 そもそも2GHz帯は互いに設備競争している。ただ,我々が周波数を割り当てられていない800MHz帯を利用しているからこそ(基地局を効率的に)展開できるような田舎についてはローミングを義務化すべきではないか。収入うんぬんではなく,山奥での事故や農作業中のトラブルといった緊急時に連絡できない顧客を救済するために実現すべきと考えている。

3月にイー・モバイルの回線を借りてパソコン向けの定額データ通信サービスを開始した(関連記事)。携帯電話事業者がMVNO(仮想移動体通信事業者)となることに対する批判も出ている。

 「通信事業者の責務を果たしていない」という意見があるようだが,それは大きな誤解だ。我々は2GHz帯で設備投資を精一杯やってきた。一方で,イー・モバイルの設備は現状では,ユーザーがまだ少ない。飛行機にたとえれば,座席が空いたまま飛んでいるようなものだ。座席を埋めることは国民の共有資産である電波の有効活用につながる。電波を有効に利用するなというのは全く理解に苦しむ議論だ。携帯電話事業者がMVNOになってはいけないというルールがあるわけでもなく,やましいことは何もない。

 我々は2GHz帯への設備投資だけで終わるつもりは全くない。1.5GHz帯の免許も希望しており,獲得できた場合は積極的に設備投資していく。その後,800MHz帯の割り当てがあればさらにもう一段積極的に設備投資する計画である。この時間差を埋めるために,イー・モバイルのMVNOとなって一時的に利用している。もちろん,その時間が過ぎた後でも一部地域については互いに共有した方が良いエリアは融通し合う部分はあるだろう。

合同公開ヒアリングでは「光の競争をあきらめかけているような状況」と発言していた。固定の競争をあきらめたのか。2月にはNTT東西とフレッツ光の代理店契約を結んだ(関連記事)。

 NTT東西との販売代理店契約は,光ファイバの8分岐問題(1分岐貸し)が延期され,やむを得ず実施した。ADSLは1本単位で申請できたが,光(FTTH)は1本単位で利用できないというのは横暴な理屈だ。NTTは光の設備投資を回収できないというのであればアクセス網を分離すればよい。NTT東西をはじめ,KDDIや当社が平等な条件で利用できるようになれば,みなフェアになる。

 NTTの組織問題の議論が2010年に先送りされるのであれば,せめて1分岐貸しを実現してほしかった。この議論すら先送りされてしまったとなれば,我々は光事業に取り組みようがない。当社は固定を軽視しているわけではなく,やっと利益が出るようになってきた。それも先細りするようでは困るが,1分岐貸しの実現で構造的な問題が解決すれば積極的に取り組んでいきたい。