写真1●ソフトバンクの孫正義社長
写真1●ソフトバンクの孫正義社長
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 ソフトバンクは2009年2月5日,2008年度第3四半期の連結決算を発表した。

 第1四半期から第3四半期の累積の売上高は,前年同期比3.7%減となる1兆9822億6200万円,営業利益は同5.6%増となる2746億9000万円の減収増益となった。減収は携帯電話端末の販売数が減少したことが影響した。営業利益は固定系事業などで利益率が拡大し,過去最高益となった。

 併せて第2四半期の決算発表時に開示した2008年度のフリーキャッシュフローの見込みを100億円上方修正し,1500億円とした(関連記事)。

3G契約者の解約率は0.69%まで低下

写真2●月月割の満期を迎えるユーザーが増えてきたため,構造的に携帯電話事業の収益改善が図れると強調
写真2●月月割の満期を迎えるユーザーが増えてきたため,構造的に携帯電話事業の収益改善が図れると強調
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写真3●1人当たりの月額支払い額は増加傾向に
写真3●1人当たりの月額支払い額は増加傾向に
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 売上高の大部分を占める移動体通信事業については,端末販売台数の減少の影響で売上高は減収となっている。しかしソフトバンクの孫正義社長(写真1)は,割賦販売と同時に始めた最長24カ月間にわたって月額料金を割り引く「月月割」(旧名新スーパーボーナス特別割引)にて満期を迎えるユーザーが出てきた点を指摘。「これまでは月月割によって通信料を割り引いていたため,ユーザー数が増えても通信料収入が増加しにくかった。しかしこれから構造的に収益を改善できる体制になってきた」と強調した(写真2)。

 「かつては24カ月を過ぎると解約が増えるのではという懸念があったが,2008年度の端末の平均利用期間は39カ月まで延び,3Gの契約者にいたっては解約率は0.69%まで低下した。24カ月間の月月割をしなくて済む月が15カ月間もあり,通信料収入増加に貢献する」(孫社長)。

 実際,2008年度の第3四半期の端末割賦請求分を足し合わせたARPU(契約者一人当たりの平均収入)は,5770円となり前期よりも50円増加(写真3)。売上高のうち通信料だけに限って言えば,前年同期の7665億円から7786億円に増えているという。孫社長はARPUの中でも特にデータ通信部分が増加傾向にある点を強調。これらの移動体通信事業の収益改善によって,第2四半期の決算時に発表した2009年度の営業利益4200億円は十分達成可能と説明した。

 なお第2四半期の決算発表時に開示した,旧ボーダフォンジャパンが発行した公募社債に伴う最大750億円の特別損失を計上する可能性についても現況を明らかにした。2月5日現在,6つの銘柄が債務不履行(デフォルト)に陥っている状態から変化はなく,損失は発生していないという。

携帯事業者のMVNO化反対については「言っている意味が分からない」

 質疑応答では,前日に発表したソフトバンクモバイルがイー・モバイルのMVNO(仮想移動体事業者)として定額制データ通信サービスを開始することについて質問が相次いだ(関連記事)。テレコムサービス協会内のMVNO協議会が,「携帯電話事業者が他の携帯電話事業者のMVNOとしてサービス提供することは,MVNOの趣旨に反し,認められるべきではない」(関連記事)と反発したことに対しては,「言っている意味が分からない。国民の共有資産である電波を可能な限り有効利用するのが国民に対する義務。それが携帯電話事業者同士であっても同じこと」(孫社長)と突っぱねた。

 周波数免許を受けた携帯電話事業者がMVNOになることで,インフラ投資が疎かになる懸念もある。この点について孫社長は「KDDIなどは10年近くで基地局数は2万程度しか設置していない。我々は買収当時2万程度だった基地局を,短期間で5万局まで増やしている」と話し,周波数免許を受けた事業者としての責務を果たしていることを強調した。

 同社はイー・モバイルとの提携のほかに,NTTグループとも光ファイバの分野で協業を図るなど,かつてのイメージとは異なり,競合他社との協業を積極的に進めている。この点について孫社長は「情報革命を目指すという点では,競合他社も志を同じくする立派な競争相手。感情的に他社の足を引っ張ろうとはしていない。理にかなうときには協調していく」というスタンスを明らかにした。

 同社はUQコミュニケーションズに対してもMVNOの申し込みをしているという。「料金の折り合いさえ付けば,MVNOとしてモバイルWiMAXサービスを7月ころから提供したい」(孫社長)。孫社長は,UQコミュニケーションズが出したMVNO向けの提供料金について,(関連記事),「我々も2.5GHz帯参入を検討した時に料金を試算している。それよりも高い料金であるのならば,不当に高いと文句を言うかもしれない」とけん制した。

 なお発表会終了後の個別取材にて,ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役員CTOは,イー・モバイルとの協業による定額制データ通信サービスの概要を明かした。端末はデータ通信専用で,イー・モバイルの持つ1.7GHz帯に加えて,ソフトバンクモバイルが持つ2GHz帯の周波数でも通信できるという。イー・モバイルのエリア外では,ソフトバンクモバイルの2GHz帯のネットワークで通信できる仕組みだ。「料金はイー・モバイルと全く同じでいこうと考えている」(宮川CTO)。なおイー・モバイルに対しては逆に,ネットワークが未整備な地方エリアでソフトバンクモバイルの設備を貸し出すことも提案しているという。