NTTドコモは2008年4月10日,横須賀リサーチパーク(YRP)内にあるNTTドコモ R&Dセンタで,同社が開発を進める「Super 3G」(LTE)の実証実験を外部に初公開した。

走行しながら240Mビット/秒超を記録,遅延も11ミリ秒程度

 今回ドコモが公開した実験(写真1)では,1.7GHz帯の20MHzの帯域幅を使い,4本の送受信アンテナによる4×4MIMO(multiple-input multiple-output)のシステムを利用。このシステムの理論上の最大速度は約300Mビット/秒となる。R&Dセンタの屋上に設置したアンテナから電波を送信し,屋根にアンテナを搭載した車両を受信機として(写真2),YRPの付近を走行しながらハイビジョン画像を送受信する様子などを披露した(写真3)。

 スループットは,時速30キロほどで走行しながら最高で240Mビット/秒を超える速度を記録した(写真4)。建物の陰などに入ったときに数十Mビット/秒程度に速度が落ちる場合もあったが,ハイビジョン映像を6本同時に受信(合計約80Mビット/秒)していても映像が乱れることはほとんど無かった。

写真1●Super 3G(LTE)のシステム   写真2●受信ユニットを搭載したデモ用の車両
写真1●Super 3G(LTE)のシステム
一番左のラックが受信ユニット,「eNode B」と書かれたラックが基地局設備。写真では半分しか写っていないが,一番右がコア・ネットワークのシステム。
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  写真2●受信ユニットを搭載したデモ用の車両
屋根に複数のアンテナが見える。
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写真3●複数のハイビジョン映像を受信   写真4●スループットの測定値
写真3●複数のハイビジョン映像を受信
映像が乱れることはほとんど無かった。
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  写真4●スループットの測定値
走行しながら240Mビット/秒を超えるスループットを記録していた。
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 Super 3G(LTE)は,これまでの3Gのシステムと比べて遅延が少ないのも特徴だ。遅延の少なさを生かし,送信側と受信側で対戦型オンライン・ゲームをするデモを披露するなど(写真5),Super 3G(LTE)を商用化した際のサービス像の一端も見せた。実際にpingコマンドを使った遅延時間の測定では,11ミリ秒程度の値を記録(写真6)。数十ミリ秒程度の遅延が生じると言われる現在の3Gシステムとの違いを強調した。

写真5●遅延の少なさを生かしたデモ   写真6●pingコマンドを使った遅延時間の測定
写真5●遅延の少なさを生かしたデモ
対戦型オンライン・ゲームを使い,ネットワーク経由でも違和感なく操作できる様子をアピールしていた。
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  写真6●pingコマンドを使った遅延時間の測定
11ミリ秒程度に収まっていることが分かる。
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当初は5MHz幅からスタート,短期間の全国展開は必要なしとの考え

写真7●NTTドコモ無線アクセス開発部の尾上誠蔵部長
写真7●NTTドコモ無線アクセス開発部の尾上誠蔵部長
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 NTTドコモ 無線アクセス開発部の尾上誠蔵部長(写真7)からは,Super 3G(LTE)の展開に向けた説明があった。尾上部長は「Super 3G(LTE)は3GPPにて主要な仕様が承認済みで,現在は20%ほどの作業が残っているだけ。ドコモとしては2009年末までに開発を完了し,2010年には商用展開可能な状態にしたい」と語った。

 Super 3G(LTE)は,既存の3Gの周波数をそのまま利用できる。ただ尾上部長は,「既存サービスの継続や海外からのローミング向けに現在の3Gサービス向け周波数をすぐには移動できない。そのため,当初は2GHz帯の5MHz幅から導入し,徐々に周波数を増加していきたい」と語った。5MHz幅の帯域を使った場合の下り最高速度は約30Mビット/秒にとどまる。そのためか尾上部長は「願わくば,周波数追加割り当てのタイミングでSuper 3G(LTE)を導入できると好都合」と付け加えた(関連記事)。

 エリア展開については,既存の3Gエリアにオーバーレイする形で展開するという。3GとSuper 3G(LTE)のデュアル端末を用意し,Super 3G(LTE)のエリア外では3Gサービスを利用できるようにする。尾上部長は「短期間での全国展開は必須ではない」との考えを示した。

 また,今後の課題として尾上部長は,端末側の完成度と機器間の相互接続性を挙げた。機器間の相互接続性を試験する場としては,世界の主要通信事業者,ベンダーが参加する「LTE/SAE Trial Initiative」という団体が発足。ドコモもこの団体に参加している。同社はあくまで世界の情勢と歩調を合わせて,標準仕様に則った形でSuper 3G(LTE)を導入する姿勢を強調した。

 Super 3Gとは,W-CDMAの拡張技術であるHSDPA(high-speed downlink packet access)やHSUPA(high-speed uplink packet access)をさらに発展させた3.9世代の技術。一般的には「LTE」(long term evolution)という名前で知られている。下り100Mビット/秒以上,上り50Mビット/秒以上の速度を目指して,開発が進んでいる。

 W-CDMAネットワークをNTTドコモが「FOMA」と名付けたのと同じように,NTTドコモはLTEのことを「Super 3G」と名付けた。同社は2009年の開発完了を目指し,2007年7月から屋内実験(関連記事),2008年2月から屋外実験を開始している(関連記事)。