「米Microsoftにとって米Googleは目の上のこぶ」という見方が一般的だ。確かにそうした面はあるだろうが,Googleから見るとMicrosoftがこぶなのだ。GoogleがMicrosoftを目障りな存在と考えていることは,2008年2月第1週にMicrosoftの米Yahoo!買収計画に対する文書を内容も練らずにWebサイトで公開し,両社のインターネット事業統合に反旗を掲げたことで明らかになった(関連記事:Google,「MSのYahoo!買収はインターネットの原則を脅かす」と批判)。

 Google上級副社長兼CLO(最高法務責任者)のDavid Drummond氏は2月3日(米国時間),同社の公式ブログに「MicrosoftのYahoo!に対する敵対的買収の提案は,難しい問題を投げかける」と書いた。「かつてパソコン市場で発揮したような不適切かつ違法な影響力を,今度はインターネット全体に及ぼすつもりかもしれない。Microsoftは,ある市場で独占体制を築き上げると,それを関連市場に広げようと幾度も試みてきた」(Drummond氏のブログ記事)。

 しかし,Microsoftの過去の振る舞いを喧伝する行為は極めて無意味だし,現在のGoogleが同じ戦略をとっている事実に言及しなかったDrummond氏は都合が良すぎる。Googleはオンライン検索市場で独占体制を築き,それを広告配信,電子メール,カレンダー,オフィス・プロダクティビティといった新たな近接市場の独占に利用している。こうした状況だからこそこそ,米DoubleClickを買収してオンライン広告市場における独占体制を揺るぎないものにしようとするGoogleの計画は,独占禁止法に触れないかどうか世界各地で厳しく調査された。ただし,米司法省(DOJ)は2007年の終わりごろ計画を承認した(関連記事:FTCがGoogleのDoubleClick買収を承認,Googleは「ECの許可を待つ」)。

 Googleは,ピント外れのブログ記事以外でもMicrosoftに対抗した。直接的なライバルであるはずのYahoo!だけでなく,Yahoo!に買収を持ちかける可能性のある米AOLなども接触し,MicrosoftによるYahoo!買収の阻止で協力できると説明したのだ。さらに,Googleのロビイストが,せめてMicrosoftのYahoo!買収手続きを遅らせようと議員と規制当局に働きかけ,ワシントンで大きな発表をぶち挙げようと奮闘している。

 もちろん,Googleが反Microsoftに入れ込むのは初めてでないし,CEOであるEric Schmidt氏の経歴(米Sun Microsystemsと米Novellに在籍した経験があり,そのころの10年間は,両社がMicrosoftとの市場競争にあっさり打ち負かされた時期だ)を考えると,GoogleがMicrosoftという亡霊に取りつかれてもおかしくない。2007年に限っても,Microsoftが「Windows Vista」にデスクトップ検索技術を搭載した件と,GoogleによるDoubleClick買収計画の件で,両社は2回も角突き合わせた(関連記事:「Windows Vistaの検索機能の仕様変更は不十分」 -- GoogleはMicrosoftの対応に満足していない)。Googleは告訴もせずWindows Vistaの大幅な仕様変更という要求をMicrosoftに飲ませ,デスクトップ検索市場の圧倒的な勝利者となった。DoubleClick買収計画はいまだ欧州連合(EU)が検討しており,結論が出ていない。

 Googleの問題は,同社の反Microsoftという姿勢が最終的には容認されないことにある。MicrosoftとYahoo!が組めば検索/広告市場でGoogleの強力なライバルになるが,それでも1位Googleとの差は大きい。そのうえ,GoogleがYahoo!買収やYahoo!との提携を実行すると,Microsoft以上に深刻な独禁法問題を起こすことは必至だ。Googleが検索/広告市場を支配していることは明白だから,Googleのクレームは聞くだけ聞いて取り下げてもらおう。強くなりつつあるライバルに勝つ勝者ほどつまらないものはない。