写真●パネルディスカッションでは有識者が「ユビキタス都市」実現に向けての課題を話し合った
写真●パネルディスカッションでは有識者が「ユビキタス都市」実現に向けての課題を話し合った
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 組み込み技術の総合展「TRONSHOW2008」と平行して開催されたパネル・ディスカッションで、東京大学教授の坂村健氏や国、民間企業のキーパーソンが、都市空間にコンピューティング環境を適用するメリットや、適切な運用に必要な制度のあり方について意見を交わした(TRONSHOWの関連記事)。

 日本国内では現在官公庁や自治体、研究機関、民間企業による「自律移動支援プロジェクト」が進んでいる(同プロジェクトのWebサイト)。ユビキタス・コンピューティングの仕組みを使った生活環境を整備する試みで、無線ICタグやバーコードを壁や道路に埋め込み、それをモバイル・コンピュータと連動させることで通行を支援するもの。東京都による「東京ユビキタス計画」や、神戸空港におけるユビキタス・コンピューティングの取り組みがその代表例である(東京ユビキタス計画の関連記事)。坂村教授らが設計・開発した「ucode」の仕組みを使っている(ucodeの解説記事)。

 パネル・ディスカッションで坂村氏が訴えたのは、産官学一体となって、法律面をはじめとしたユビキタス・コンピューティングに必要な制度設計を実施すること。「道路という技術と道路交通法という法律がセットになってはじめて、交通が機能する。これと同じように、ユビキタス・コンピューティングにも法制度からのアプローチが必要だ」と坂村氏は語る。

 「インターネットは普及してから(セキュリティなど)さまざまな問題点が噴出した。草の根で広がると後で取り返しのつかなくなるケースもある。物理空間にコンピュータを埋め込むユビキタス・コンピューティングであれば、なおさらその影響は大きい。だからこそ、実証実験を重ねて問題点を洗い出していくことが欠かせない」(坂村教授)。

 総務省で研究開発案件の取りまとめをしている松本正夫 官房技術総括審議官は、コンピュータとネットワークが都市と一体整備される際、セキュリティやプライバシーの懸念が高まるであろうと見る。「セキュリティやプライバシーについて、社会的なコンセンサスをどう得るかが課題になる。冷静な議論が必要だ」と松本審議官は指摘した。「日本では、技術を適用する際のリスクについて、感情的な議論が起きてしまいがち。これでは、せっかく多くの人が利便性を得られるアイデアでも実現には至らない。韓国が利便性の高い電子政府を実現できているのに日本の電子政府がお粗末なのは、そうした風潮があるからではないか」(松本審議官)。

 国土技術研究センターの大石久和理事長は、「日本は技術と制度のバランスが悪い。iPodのような商品を日本企業が作れなかったことが象徴的だ」と話し、松本審議官の意見を補足する。「日本では、アイデアを適用した際のメリットとリスクの両方を冷静に見た議論ができていない。結局ただ立ちつくすまま、という事態がまま見られるが、もうそんなことの繰り返しはやめにしたい」。併せて大石理事長は、「地震をはじめとした自然災害のリスクが高い日本だからこそ、災害の早期検知や避難勧告の仕組みが必要。ユビキタス・コンピューティングは大いに役立つ」と意義を強調した。大石理事長は以前、国土交通省の技監として自律移動支援プロジェクトの発起に携わった。

 東京都の只腰憲久 都市整備局長は、「世界に類のない高齢化社会を迎える日本だからこそ、ユビキタス・コンピューティングの重要性はますます高まる」とその重要性を強調した。東京都が国土交通省などと連携しながら進めている「東京ユビキタス計画」の実例を踏まえながら、観光者だけでなく、高齢者や障害者にも有用な通行支援システムを紹介。利用者の声に触れつつ、その有効性を語った。ただし課題は使いやすさの向上。「誰でも使いやすいシステムにするための努力が欠かせない」と話す。

 東京ミッドタウンマネジメントの市川俊英社長は、官民共通で利用できることが普及に欠かせないとした。「インフラを組織の形態にかかわらず利用することで、その応用の幅が一気に広がる。そうした幅の広さを確保しておくことがこれからのインフラの条件ではないか」(市川社長)。東京ミッドタウンマネジメントは三井不動産の子会社で、東京・六本木で今年3月にオープンした「東京ミッドタウン」の管理会社である。東京ミッドタウンはuCodeを使った構内アート作品の情報提供サービスを提供している。