写真1:米Intelのジャスティン・ラトナーCTO
写真1:米Intelのジャスティン・ラトナーCTO
[画像のクリックで拡大表示]
写真2:研究開発中の技術の一例。人の動きをカメラでとらえ,コンピュータ空間にリアルタイムで再現している
写真2:研究開発中の技術の一例。人の動きをカメラでとらえ,コンピュータ空間にリアルタイムで再現している
[画像のクリックで拡大表示]


 「テラスケール・コンピューティングを実現する」。米Intelのジャスティン・ラトナーCTO(最高技術責任者)はこう宣言する。ラトナーCTOは11月14日,インテル日本法人が主催するセミナーで,Intelの研究開発の現状と将来像について説明した(写真1)。

 Intelが掲げる研究開発の重点分野は3つ。1つは「テラスケール・コンピューティング」,もう1つはセキュリティ,最後の1つはネットワークだ。

 テラスケール・コンピューティングとは,扱うデータや通信速度が「テラ級」に及ぶコンピュータ環境のことを指す。「当社はテラ(10の12乗)級のスペックを持つハードや,それを支えるソフト技術の研究を進めている。コンピュータでテラ級のデータや通信が扱えるようになると,アプリケーションの幅が一気に広がり,企業活動や生活にさまざまなメリットが生まれる」(ラトナーCTO)。

 Intelはプロセサのパッケージ内に80コアを収めたマルチコア・プロセサの試作を進めている。この「80コア・プロセサ」は従来のタテ・ヨコの2次元空間にプロセサの回路や要素を配置するのではなく,高さも含めた3次元空間にも配置。メモリーへのアクセスやコア間の通信の効率化を実現している。「こうした大量のコアを持つプロセサが,テラスケール・コンピューティングの中核になる」とラトナーCTOは述べる。

 テラスケール・コンピューティングが狙うのは,「認識(Recognision)」,「マイニング(Mining)」,「統合(Synthesis)」といった用途。「テラ級の性能を活用すれば,大量の医療画像から共通の特徴を見出したり,逆に膨大な画像アーカイブから特定の画像をすぐに見つけられるようになる。これが認識(Recognision)やマイニング(Mining)だ。既存の“ギガスケール”のコンピュータでは難しく,テラスケールだからこそ望めるアプリケーションである」(ラトナーCTO)。

 また,統合(Synthesis)の一例として,4つのカメラで人物の動きをビデオカメラでとらえ,コンピュータ内の仮想空間上でリアルタイムに再現する,という利用シーンを見せた(写真2)。ラトナーCTOは,「まだ試作段階だが,テラスケール・コンピューティングが実現すればもっと手軽に,かつ高速にこうしたアプリケーションを作れるようになる」と語る。

 セキュリティ分野については,企業内やデータセンター内における通信の安全性向上にフォーカスして研究開発を進めている。「情報セキュリティの事件や事故を見ると,内部からの犯行が多い。こうした状況を踏まえ,スイッチやルーターなど各通信機器間でも暗号化を施していくテクノロジーを開発中だ」(ラトナーCTO)。また,ラトナーCTOはインテル日本法人が筑波大学などに協力している「セキュアVM(仮想マシン)」開発プロジェクトにも触れ,仮想化技術の研究もいっそう進めていくと述べた(セキュアVMの関連記事)。

 こうした事業に直結する分野の研究だけでなく,中長期的な視野で取り組む研究分野「Exploratory research(探検的な研究)」も平行して進めている。最近Intelのプロセサに搭載され始めた仮想化技術や,今年本格的に事業としてスタートした医療分野の「デジタル・ヘルス事業」はその1つだという(デジタル・ヘルスの関連記事)。「新しい分野を切り開いて先頭に立つためには,こうした先行的な研究が不可欠」(ラトナーCTO)。

 Intelの研究開発で興味深いのは,標準化や政策を研究開発の対象としてとらえていること。「テクノロジーはその実現の過程で,標準化や政策の影響を受ける。例えば新しい無線ネットワークを普及させるには,政府による使用帯域幅の開放が不可欠。(標準化や政策を)研究開発の一環としてとらえることには大きな意味がある」とラトナーCTOは強調する。このような考え方には,日本のIT関連企業も学ぶべきところがありそうだ。

“無尽蔵なコア”を使い切る方法は?

 このように米Intelの研究開発分野は多岐にわたるが,やはり中心はプロセサである。商用レベルでは少しずつマルチコア化を進める一方で,応用研究レベルでは「80コア・プロセサ」の試作版を発表。その演算性能は,1個で1TFLOPSと1996年時点で世界最速のスーパーコンピュータ並みという。近い将来,私たちは無尽蔵とも言えるほどにコアを内包したプロセサを,デスクトップ環境でも使えるようになりそうだ。

Intel社が80コアのマイクロプロセサを試作,性能は1TFLOPSでメモリもコアごとに接続

2025年にはデスクトップに“スパコン”がやってくる

 一方,IntelはGoogleやYouTubeなど巨大Webサイトの勃興を見つつ,今後出現するであろう「メガ・センター」に必要なプロセサ周辺技術の開発を進めている。省電力化した電源ユニット,データセンター内ネットワークのセキュリティ強化策などはその代表で,実用化を急ピッチで進めているという。

「巨大データセンターの時代に備えよ」とインテルのラトナーCTO

 本文でも紹介したように,Intelは中長期的な研究を「Exploratory Research」と題して進めている。この領域では,いつ実現するのか疑問にも思える研究テーマも手掛けている。コンピュータと生活の融合,物体のモデルの形状を自動的に変化させる“物体のレンダリング”など,未来的なテーマ設定が特徴だ。

米Intelの研究開発部門が最新の成果を披露