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 「ユビキタス・コンピューティングが、いよいよ実用に向けて動き出した」。2005年12月13日、「TRONSHOW2006」の開幕を控えた記者発表会で、東京大学大学院情報学環の坂村健教授は“宣言”した。

 坂村教授はモノや場所を識別する仕組み「uID」の普及状況や、無線ICタグ関連の新技術など、過去1年間の主要な取り組みについて、10項目以上にわたって紹介した。

異なる無線ICタグを同時に読み書き

 無線ICタグ関連については、YRPユビキタスネットワーキング研究所が開発・提供している「Dice」を使ったセンサー・ネットワーク向け機器を発表した(詳細はこちらの記事)。また、異なる種類の無線ICタグを同時に読み書きできる無線ICタグ・リーダー/ライターも開発した。YRPユビキタスネットワーキング研究所は坂村教授が所長を務める研究機関である。

 uIDについては、その運用を強化する「ユビキタスID基盤システム」を発表した。モノや場所に付与した番号(ucode)を国にまたがって安全にやり取りするために、インターネット上にuID専用の仮想ネットワークを構築するもの。基礎的な部分はすでに固めており、韓国のインターネット振興院(NIDA)と共同で実験を開始しているという(詳細はこちらの記事)。

 坂村教授は「ucodeを安全に、かつ世界規模でやり取りできる基盤を作ることで、uIDのグローバルな利用を支援したい」と語る。uIDは坂村教授が提唱した仕組みで、非営利組織のユビキタスIDセンターが運営する(参考記事)。

 uIDの普及促進策としてはほかにも、「ユビキタスID利用キット」の提供を明らかにした。uIDを使って物品管理などの実システムを構築したい開発者に向けたものだ。日本語版だけでなく英語版も用意し、2006年1月に全世界で同時にリリースするという(詳細はこちらの記事)。

海外にもユビキタスを展開

 「国内・海外を問わず、uIDの利用が次々と始まっている」(坂村教授)。海外については韓国、中国、オーストラリアなどにおけるuIDの管理・運営組織の展開状況を紹介。中国では家電分野の公的研究機関が、uIDを使った家電製品のリサイクル・システムを検討しているという。オーストラリアでは医薬品や養殖水産品のトレーサビリティ・システムの実験を計画している。

 国内については、今後実施する新しい実証実験をいくつか紹介した。例えば2006年2月に開港する神戸空港では、uIDを使った来港者向けサービスの実証実験を開始する予定。

 「TRON」アーキテクチャについてもいくつか発表した。リアルタイムOS「T-Kernel」について、統合開発環境の整備が進んでいることや、拡張カーネルの整備が進んでいることを紹介。またデンソーのカー・ナビゲーションシステムなど、実製品への適用が進んでいることも併せて発表した。また、より小規模な組み込みシステムを対象にした「μT-Kernel」の開発を始めたという。

 さらに坂村教授が興奮を抑えきれない様子で紹介したのが、合計36万種類の漢字フォント・データの無償公開である(詳細はこちらの記事)。「このセットにない漢字はない、と言って良い」(坂村教授)。戸籍に使われている漢字はこれでカバーできるうえ、中国の古い文献もデジタル文書化できるという。坂村教授は「この無償公開で、漢字文化圏に貢献できれば幸いだ」と結んだ。

(高下 義弘=ITPro)

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