ITCが導入した作業の進ちょくを見える化するための「生産進捗管理版」。その下にある青色の素材が電子部品を切断する時に保護用に張り付ける粘着材料。後ろに並ぶのが、粘着材料を利用するために製造している工作機械
ITCが導入した作業の進ちょくを見える化するための「生産進捗管理版」。その下にある青色の素材が電子部品を切断する時に保護用に張り付ける粘着材料。後ろに並ぶのが、粘着材料を利用するために製造している工作機械
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 ラベルやシール、付せん紙に始まり、液晶ディスプレー用のフィルムや電子部品の保護素材など様々な粘着材料を製造するリンテックが、トヨタ流の改善活動を全社展開しようとしている。2007年12月からトヨタ流の外部トレーナーに指導を受け、全社に先行して改善に取り組んできた伊奈テクノロジーセンター(埼玉県伊奈町、ITC)が半年で生産性を30%向上させるなど成果を上げた。そのため、2009年夏以降には、ほかの工場にもトヨタ流の改善を横展開したい考えだ(関連記事)。

 改善活動で先行するITCは、リンテックの稼ぎ頭である粘着材料を繰り返し販売できるように、電子部品業界向けに粘着材料の利用装置を製造している拠点である。その中でも最初の改善対象になったのが、電子部品を切断する時に部品の表面を保護する粘着材料を張り付ける工作機械の生産ラインだ。まずは5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)や生産進ちょくの見える化を徹底し、2008年6月までの半年間で、1台1億円はする工作機械の出荷作業の生産性を30%向上させた。

 続く2008年6月末からは、使った分だけ部品をかんばんで補充しながら在庫を半減することを狙って、後補充生産の検討を開始(関連記事)。2008年秋までには改善対象製品の後補充生産を開始できるところまで漕ぎ着けた。ただし、折からの不況で現在は工作機械の出荷ペースが落ちており、実力を発揮するには至っていない。シミュレーション上では改善対象製品の生産リードタイムを、従来の受注後16週間から10週間まで短縮できる見通しが立っている。

次のステップにはトヨタ流が必要だった

小林賢治・常務取締役技術統括本部長(手前中央)と、改善活動に取り組むITCのプロジェクトリーダーたち

 リンテックでトヨタ流改善を指揮するのは、小林賢治・常務取締役技術統括本部長である。小林常務は2007年当時、ITCの所長を務めていた。そのころのITCは2006年度の売り上げ目標だった100億円を達成できるところまで成長し、小林所長は次の目標として同200億円と利益率25%を掲げていた。

 しかし、現行の生産体制のままでは新たな目標を達成できるかどうか分からず、外部のノウハウを取り込む決断を下す。トヨタ流のコンサルティング会社オージェイティー・ソリューションズ(名古屋市)に改善指導を依頼し、ITCで改善活動「IIP(ITCイノベーションプロジェクト)」を開始した。

 とはいえ、当時の小林所長は、世の中の黒子として自動車や電気製品、日用品、食品、医薬品など、あらゆる分野で利用されている粘着材料を幅広く手がけるリンテックのものづくりに、それなりの自信を持っていたとも打ち明ける。ところがOJTソリューションズが改善前に実施した職場診断では予想以上に厳しい結果を突きつけられ、驚いたという。「トヨタの目から見ると、まだまだ改善できる余地があったことに改めて気づかされた」(小林常務)。

 例えば、トヨタ流の基本である5Sも、リンテックは以前から当たり前のこととして実施してきたつもりでいた。だが、「我々は大きな棚を買ってきて資料を整然と並べることを5Sと思い込んでいた。実は棚には不必要な物が多く、必要な時に必要な資料をすぐに見つからない状態だった」。2007年末に改善を始めて最初にしたことといえば、買ったばかりの棚を撤去して、いらないものを捨てる作業だったという。

 5Sに始まり、現場のレイアウト変更や進ちょくの見える化、作業の標準化などを進めた結果、改善対象とした製品の出荷作業にかかる時間は従来の106時間11分から74時間57分へと、約30%短縮することに成功した。