日経情報ストラテジーが2004年から追いかけ続けている取材テーマの1つがトヨタ流企業改革である。2006年末には、過去3年間に書き溜めてきた事例記事をまとめた集大成のムック「ケースで学ぶトヨタ流企業改革」を発行したのだが、記者には1つだけ「記述が欠けていたな」と反省させられる点があった。

 それは、「どうしたら、我が社もトヨタ流企業改革が根付く会社に生まれ変われるのか?」という読者の素直な疑問に対して、その改革を進めていく「手順」という意味での「答え」がムックには明確に記されていなかったことだ。改革の手順については、ムックで詳細に取り上げたイトーヨーカ堂やトヨタ系自動車販売会社、トヨタファイナンス、キヤノンなどの事例記事を通して、読者に推測してもらうしかなかった。そこで、日経情報ストラテジー2007年5月号の総力特集(3月発売)では、トヨタ流企業改革を実践して現場に根付かせていくための手順を明確にまとめることにした。ここでは、そのエッセンスをお伝えしよう。

 結論を先にいえば、(1)現状分析→(2)チーム編成→(3)2S(整理・整頓)→(4)標準化→(5)報告会→(6)横展開の「6つのステップ」が、トヨタ流を実践する企業からはっきりと浮かび上がってきた。特集では、改善活動を継続させて現場を進化させていける現場力の高い組織を「改善職場」と呼ぶことにした。現場力が高い企業とは、つまり、改善職場の集合体であり、現場の問題が現場で解決されていく。こうした改善職場に生まれ変わる1つの手法として、トヨタ流に取り組む企業はほぼ間違いなく、上記の6つのステップを踏んでいた。これらのステップは企業の業種や規模に依存しないことも分かった。

絶対に外せないのは最初の「現状分析」

 6つのステップの中で一番大切なのが、最初の「現状分析」だ。ここを外して、トヨタ流の改善職場作りはあり得ないだろう。まずは現場の「事実」をとらえて、課題を直視する。人が改善職場作りに本気になるきっかけは「事実の提示」だということを、トヨタ流に取り組む企業が教えてくれている。

 トヨタ流企業改革を語るうえで避けて通れない大切な行動規範「現地現物」は、言い換えれば、事実に基づいて即行動を起こすということである。社員の作業分析や業務の棚卸し、顧客満足度調査などから明らかになった事実と、社員の意識や思い込みとの間に大きなズレやギャップがあるならば、その差を埋めるところから改革を始めなければならない。そのためにも、とにかく「現場の事実」をつかまえなければならない。

 具体的には「何人、何回、何分、何%」といった現場の「数字」をしっかりとらえることだ。それが現状分析である。その数字から問題の「真因」に迫るのがトヨタ流だ。

 現状分析が終わったら早速、改善職場作りに取り掛かる専任の改善チームを作る。それがステップ(2)のチーム編成である。ただし、改善職場作りの「主役」はあくまでも現場の人たちであることを忘れてはいけない。改善チームは現場が自力で改善できるように後押しする「黒子」に徹しなければならない。

 さて、ここからが実践だ。実際に改革に汗を流すスタートは、ステップ(3)の2S(整理・整頓)である。2Sは誰でもできるし、誰の目にも見える分かりやすい成果を大きな投資なしに短期間で上げられる。次いでやるべきことはステップ(4)の標準化である。標準化とは簡単に言えば、ある作業に対して、現場で一番うまいやり方を見つけて、それを標準作業と定義して全員でその標準作業を実践することだ。そして、もっといいやり方が見つかれば、どんどん標準作業を変えていく。この行為がトヨタで言う「改善」なのである。

 (1)~(4)の活動内容は定期的に全社に知らせる。それがステップ(5)の報告会である。報告会は、まだ改善活動を始めていない部署を巻き込むために実施すべきものなので、活動を始めていないほかの部署の現場リーダーに出席を促し、刺激する。こうして改善活動を全社に広げていくのがステップ(6)の横展開となる。トヨタでは「ヨコテン」と呼ばれている。トヨタ流の最終目標はヨコテンによる「全員参加」体制の構築である。

 全社員を改善職場作りに巻き込んでいこうと考えているならば、ぜひ6つのステップに挑戦してもらいたい。