仕事の「見える化」を進めて、無駄をなくす業務改善手法。製造業だけでなく幅広い業種で導入する企業が増えている。トヨタ自動車の元副社長、大野耐一氏が確立した。

 検索エンジンのグーグルで「Kanban」をキーワードに指定すると、10万件以上のサイトが見つかります。ここで検索されるサイトのほとんどが、製造や生産に関係するもの。Kanbanの語源となっているのが、トヨタ自動車の生産管理手法です。

 「トヨタ生産方式」は、需要に応じて必要な量だけを生産することを目指します。具体的な手法として2つの柱があります。無駄な製品を作らない「ジャスト・イン・タイム(JIT)」と、現場の問題点を見える状態にする「見える化」です。

◆効果
無駄な在庫をなくす

 JITは、必要なときに、必要な量だけを生産して在庫を減らすための手法です。従来のように、それぞれの工程が稼働率を高めようとしているだけでは、無駄な在庫は排除できません。前工程が、最終工程で必要な部品よりも多く生産してしまうと製造工程の途中で仕掛かり在庫となるからです。そこで、JITでは最終工程が必要な量を決め、これに基づき各工程が生産します。こうした一連の流れを実現するために必要なものが「かんばん」と「標準作業の設定」です。

 かんばんは、後工程から前工程に必要な部品量を指示するために活用します。組み立てラインから製造工程をさかのぼり、原材料の調達部門までかんばんを回すことで、必要な量だけしか生産しない体制になります。

 さらに、必要な量がどのくらいの時間で生産できるのかを把握することも求められます。各工程ごとに1個当たりの作業時間や1日の生産量、どのような順番で部品を組み立てればよいかを明確に設定する必要があります。これが標準作業です。

 もう1つの柱である「見える化」は現場の問題点が常に見えるように工夫することです。具体的には、作業の進ちょくの状況を誰でも見られる状態にするためにボードを設置するといったことなどです。問題が見えれば、どこを改善すればよいか分かりやすくなります。

◆事例
10億円のコスト削減

 伊藤ハムは、2002年3月からトヨタ生産方式を基盤とした「IHPS(伊藤ハム生産方式)」を導入しました。JITを実践するために、阻害する無駄を徹底的に省きました。

 まず作業員一人ひとりの標準作業を定め、レイアウトの変更などによって常に一定の速度で生産できる環境を整えました。標準作業を決めることで、何個作るのに何人必要だということが明確に分かるようになりました。2004年3月期には、人件費など10億円のコスト削減効果を見込んでいます。

西 雄大tnishi@nikkeibp.co.jp