日立製作所は「2015中期経営計画」で、2015年度に連結売上高10兆円と海外売上高比率50%超を目指すと公表した(関連記事)。そのためには、ITを活用して社会インフラを高度化する「社会イノベーション事業」の強化が欠かせない。4月に日立の情報・通信システム社社長に就任した齊藤裕氏に、成長戦略を聞いた。

(聞き手は小笠原 啓=日経コンピュータ


IT業界における「グローバルメジャープレーヤー」を目指すと公言している。裏返すと、日立はまだ「マイナー」な存在だと認識しているのか。

日立製作所 情報・通信システム社の齊藤裕社長
日立製作所 情報・通信システム社の齊藤裕社長

 その通りだ。

メジャーとマイナーの差はどこにあるのか。

 市場をリードできているかどうかだろう。

 米IBMはかつて「スマーター・プラネット」というコンセプトを提案し、世の中のトレンドを作った。プラットフォーム関連では、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムを中心に物事が動いている。この観点からは、当社をメジャープレーヤーと呼ぶことはできない。

メジャーになるには何が必要か。

 IBMや米ヒューレット・パッカード、米アクセンチュアなどができないような、日立ならではのソリューションを作ることだ。

 日立の特徴は材料から建設機械、エネルギーや交通関連など、幅広い分野の事業会社をグループ内に持っている点だ。そうした部隊が現場で実際に利用するシステムをITの部隊が構築し、社内で実践的なノウハウを蓄積できることが強みになる。

 先行しているのが鉄道関連だ。ITを活用して故障の予兆を診断すれば、適切なタイミングで部品を交換できるようになる。(納入後)一定の時間が経過したらメンテナンスを実施するやり方よりもムダが省ける。現場業務や利用機器について深い知見を持っていることが、ビッグデータ活用事業で生かせると考えている。

日立は以前から、社会インフラをITで高度化する「社会イノベーション事業」を成長領域と位置づけてきた。情報・通信システム社の社長として、この戦略をどう加速させるのか。

 私は長らく、電力や交通などの制御システム構築を手掛けてきた。設備を効率的に動かすことで、省エネや省人化を実現するのが制御システムの目的だ。人間を効率的に動かすことを主な目的とする、情報システムとは考え方が異なる。制御の世界の価値観を、情報・通信システム社に伝えるのが私の使命だ。

 社会イノベーション事業は電力などインフラの部隊だけでは実現できず、ITを活用することが不可欠になる。両者の距離感を縮め、融合させるのも重要な役目だ。ITを有効に活用しながら省エネや省資源を達成することが、重要なテーマになる。

情報・通信システム部門の売上高を、2012年度の1兆7865億円から、2015年度に2兆1000億円に引き上げる目標を掲げている。

 海外でのM&Aを進めていく。

 当社の海外事業は主に二つの子会社が担っている。米日立コンサルティングと、ストレージなどのプラットフォームを提供する米日立データシステムズだ。

 だがこれだけでは足りない。現時点では、(上流工程の)コンサルティングと(下流工程の)プラットフォームの連携が不十分で、ビジネス展開が中途半端になっている。この間をつなげる会社を、海外で買収したいと考えている。コンサルからプラットフォーム提供までをストレートにつなげられれば、強いビジネスモデルを構築できるだろう。

 具体的には、エネルギーや交通などで現場のシステム構築を手掛けている企業や、実際のサービス事業を担っている企業を取り込みたい。(買収額の)規模はあまり問わずに、広く対象となる企業を探しているところだ。