トヨタ自動車は、2012年初めにも出荷するプラグインハイブリッド車(PHV)に、クラウドとソーシャルの技術を使って開発した車載情報通信(テレマティクス)サービスを提供する。新サービスのキーワードとなるのは「顧客接点」だ。同サービスの開発を率いる友山茂樹氏は、「ITを活用して、クルマを当社と顧客を結ぶ接点に変える」と話す。ITによってクルマがネットにつながることで、マーケティングから販売、顧客サポート、さらには製造にいたる、トヨタのビジネス全般を変革できる可能性があるという。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ

自動車という製品や自動車産業の現状と将来をどうみるか。

トヨタ自動車 常務役員 事業開発本部本部長 IT本部本部長 友山茂樹氏 撮影:早川俊昭
トヨタ自動車 常務役員 事業開発本部本部長 IT本部本部長 友山茂樹氏 撮影:早川俊昭

 自動車は今や、電子情報商品になりつつある。ハイブリッド車の場合、車両の価格に占める電子部品の割合は46%、そのうち50%はソフトウエアだ。プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)となるにつれて、この比率は高まっていく。

 将来のクルマが持つべき価値は二つあると考えている。一つは社会システムの中枢を担う存在となることだ。PHVやEVが搭載するバッテリーは、自動車を走らせるためだけでなく、蓄電や発電にも利用できる。PHVが1台当たりで充電できる電力は、一般家庭の消費電力の3分の1に相当するとの試算もある。

 この蓄電能力や発電能力を有効活用すれば、社会全体の消費電力量を平準化するために貢献できる。電力だけでなく、自動車のプローブ(走行状態)情報を集めて自動車間で共有することで、通行可能な道を詳細に把握できるようにもなる。

 もう一つの価値は、「パーソナルモビリティ」、つまり利用者一人ひとりに即した移動手段になることだ。エンジンで駆動する現在のクルマは、まだ人にとって縁遠い存在だ。それが電動化されて構造が全く変わることで、四輪でなくてもよくなる。クルマの姿は、ますます多様化していくだろう。

 こうした二つの価値を現実のものにするカギがIT(情報技術)だ。ITによって「走る」「曲がる」「止まる」というクルマの基本機能に次いで、「つながる」という機能を加えることができる。これにより、クルマを様々なサービスを実現するインフラにすることができる。

 ITでクルマに新しい価値を創造する取り組みは、今後の市場の担い手である若者層に対するアプローチでもある。デジタル世代とも呼ばれる現在の若者は、携帯電話料金には毎月1万円でも2万円でも支払うが、自動車のローンは3000円でも二の足を踏む。

 これは我々メーカーが、クルマの新しい価値を生み出す努力をしてこなかった結果でもある。ITによって「つながる」という魅力をクルマに付け加えれば、デジタル世代の若者層へ効果的にアプローチできるのではないか。

 今回、当社はクラウドとソーシャルメディアという二つのITサービスを活用することを決めた(関連記事1関連記事2)。