スマートフォンやタブレットの浸透によるモバイルトラフィックの急増が、携帯電話事業者の頭を悩ませている。それを受けて標準化の世界では、トラフィックの収容能力を向上させる新技術の追加が続々と進んでいる。中でも携帯電話事業者の注目を集めているのが「HetNet(Heterogeneous Network)」だ(関連記事)。HetNetは、通常の基地局がカバーするマクロセルにオーバーレイする形でピコセルやフェムトセルといった狭い範囲をカバーする基地局を配置し、両者が協調することでネットワーク全体のキャパシティを大きく改善できる技術である。

 HetNetは携帯電話システムの標準化団体「3GPP」が2011年3月に固めた3GPPリリース10にて標準化された。HetNetの動作の仕組みや、さらなる標準化の動きなどをクアルコムジャパンの北添正人・標準化担当部長に聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション

HetNetはどのような仕組みでキャパシティを向上させるのか。

クアルコムジャパン 標準化担当部長 北添正人氏
クアルコムジャパン 標準化担当部長 北添正人氏
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 HetNetではマクロセルの中にピコセルを複数配置する。ピコセルに近い端末をピコセルに収容すればマクロセルからのオフロードとなり、全体のキャパシティが向上する。しかしそのままではピコセルとマクロセルが干渉を起こしてピコセルのエリアが狭まり、端末がピコセルに収容できないケースが出てくる。

 そこでHetNetでは、「リソースパーティショニング」という機能を使ってマクロセルとピコセルの干渉を低減する。リソースパーティショニングでは、あるタイムスロットごとにマクロセルが送出する電波を止めて、マクロセルが止めたタイムスロットをピコセルが使う。そうすることでピコセルから離れた端末も、あたかもピコセルのエリアが広がるかのように(レンジエクスパンションと言う)マクロセルからピコセルに収容され、全体のキャパシティを向上させることができる。

 ただしマクロセルは、あるタイムスロットごとに完全に電波の送出を止められない。3GPPリリース10で規定された端末以外のリリース8や9で規定された端末は、マクロセルが完全に電波を止めることを想定できないからだ。そこでリソースパーティショニングで、あるタイムスロットの電波を止める場合も、基本的なシグナルだけは残している。

 なお、この信号がピコセルと干渉するケースがある。そのため端末側にも干渉除去機能を用意し、この干渉を低減する仕組みと併せて全体のパフォーマンスを向上させる方向で進んでいる。

どの程度のキャパシティ改善効果を期待できるのか。

 クアルコムは、2011年3月からHetNetのフィールドテストを実施している。その結果、例えばマクロセルの中に4個のピコセルを配置し、全体で25ユーザーいるとした場合、マクロセルだけの場合と比較して2.2倍のキャパシティ改善が見込めることが分かった(図1)。なおリソースパーティショニングや干渉除去の仕組みを入れずにピコセルだけを配置する場合は、1.2倍の改善効果しか得られない。

図1●HetNetのキャパシティ向上効果の例(米クアルコムの資料から)
図1●HetNetのキャパシティ向上効果の例
米クアルコムの資料から。
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