写真1●中国ファーウェイによる「HetNet」の説明。100倍から500倍にも膨らむトラフィック対策の切り札になるという。
写真1●中国ファーウェイによる「HetNet」の説明。100倍から500倍にも膨らむトラフィック対策の切り札になるという。
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写真2●スウェーデンのエリクソンによる説明。HetNetによって、スループットを大きく改善できるという。
写真2●スウェーデンのエリクソンによる説明。HetNetによって、スループットを大きく改善できるという。
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写真3●米クアルコムによるシミュレーションのデモ。マクロセル(青色)内にあるピコセル(赤色)のエリアが、端末(UE3)の位置によって動的に変化している。
写真3●米クアルコムによるシミュレーションのデモ。マクロセル(青色)内にあるピコセル(赤色)のエリアが、端末(UE3)の位置によって動的に変化している。
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 もはやスマートフォンやタブレットでなければ携帯ではないというほど、これらの端末があふれているMobile World Congress 2011の会場。しかし端末が高度化するほど、トラフィックは増大する。今後10年で「500倍」(中国ファーウェイ)、「1000倍」(スウェーデンのエリクソン)とも言われるほど急激に増加するトラフィックをいかに収容するのかが、携帯電話事業者が直面する課題となっている。そんなトラフィック対策の切り札になると言われる技術が、MWC2011の会場に登場している。エリクソンやファーウェイ、米クアルコムなどのベンダー各社が展示する「HetNet」だ(写真1)。

 HetNetとは「Heterogeneous Network」(異なった要素からなるネットワーク)の略。携帯電話システムの標準化団体「3GPP」のスタディアイテムとして2010年4月に議論が始まり、近く仕様が凍結される3GPPのリリース10に盛り込まれる見込みだ。

 HetNetの特徴は、その名が示す通り、異なった要素を組み合わせてネットワークを構成する点。すなわち通常の基地局がカバーするマクロセルにオーバーレイする形で、ピコセルやフェムトセルといった狭い範囲をカバーする基地局を配置する。場合によっては無線LANなどの利用も想定する。家の中のトラフィックなどトラフィックが多く発生するエリアでは、ピコセルやフェムトセルにトラフィックを逃がすことで、ネットワーク全体のキャパシティを大きく改善できる(写真2)仕組みだ。

 もっとも、これだけの説明では既存のフェムトセルの活用方法との違いが分からないかもしれない。これまではあくまでマクロセルとフェムトセルなどを組み合わせて面的なエリアを作ってきたが、HetNetではマクロセル内にフェムトセルやピコセルなどを配置して、階層的なネットワーク構成にする点に違いがある。しかもオーバーレイしたフェムトセルやピコセルは、端末の状態に応じて、コアネットワークと連携してセルのサイズを動的に変更する(写真3)。これによってそれぞれの端末ごとに、最適なセルへの収容が可能となり、全体的にパフォーマンスやキャパシティを改善できるというわけだ。

 ただ課題も残っている。一つはいかにセル間の干渉を抑えるかだ。端末の状態を見つつ、干渉を低減するような処理システムをいかに作り上げるのかが各ベンダーの腕の見せ所となる。このほか例えば、800MHz帯をマクロセルに、2.6GHz帯をピコセルに使うような周波数帯を分ける方向もあるという。

 もう一つは、高速移動する端末がピコセルとマクロセルの間を頻繁にハンドオーバーするような、全体の制御が難しくなる場合だ。この点について、例えばNECは「高速移動する端末についてはハンドオーバーを制御するような仕組みを開発している。このような考え方を3GPPにも提案中だ」(宮原景一ネットワークプラットフォーム事業本部主席技師長)という。

 HetNetは現在、標準化の最終段階ということで、実用化はまだ数年先になりそうだ。しかし今後の携帯電話事業者のネットワークを支える、重要な技術となっていきそうだ。