ニコニコ動画には現在,政治家または政党による8つの公式チャンネルが開設されており,政策を説明する動画の公開,会見や街頭演説の生中継(関連記事[1][2])などが行われている。またニコニコ動画は85万人を対象にした世論調査も行った(関連記事)。ニコニコ動画はなぜ政治コンテンツに注力するのか。なぜ多くの政党や政治家がニコニコ動画を使うのか。ニコニコ動画を運営するニワンゴの代表取締役社長 杉本誠司氏に聞いた。

(聞き手は高橋信頼=ITpro編集)


なぜニコニコ動画が政治関連コンテンツに力を入れるのですか。

ニワンゴ 代表取締役社長 杉本誠司氏
ニワンゴ 代表取締役社長 杉本誠司氏

 ニコニコ動画が政治に関連する話題を発信し始めた理由は,ひとつは(ニワンゴの親会社である)ドワンゴ会長の川上(量生氏)が,政治に関心を持っていたということがあります。一般的な社会人であれば誰でも持っている関心でしょうが,自分たちの情報発信手段をそのために使ってみようという思いが出てきた。

 もうひとつは,ニコニコ動画の会員も1000万人を超え,一般的な存在になってきた,そしてもっともっと一般的なものになっていかなければいけない,と考えていることがあります。従来はマニアックなコンテンツが多かったのですが,広い分野のコンテンツを増やしたかった。政治のほかにも,エンターテインメントの世界も巻き込んでいて,タレントさんに登場していただいたり,コンサートを中継したりといったこともやっています。

どのような成果がありましたか。

 始めてみると,政治というのはニコニコ動画と親和性の高いテーマでした。従来は街頭演説やニュース,報道番組でしか見ることができなかった政治家が,ニコニコ動画に登場して語りかけてくる。ユーザーにとっては今までなかった体験です。そのため,最初のころは「本物だ」,「これはすごい」という反応で,話していることの中身についてはあまり関心が持たれなかった(笑)。でも,それだけでもユーザーは政治に興味を持つようになる。

一方的な演説から双方向の議論へ,ステージが変化

 さらに,よく話を聞いてみると「こうしていきたい」という政治家の方なりの持論や,政党の考えがあり,それは自分たちの生活にも関わりがあるということがわかってくる。話されている内容についても関心を持つようになるわけです。

 そのため当初「わっ,出てる」という反応だったのが,話の中身に対して「それに対してはこう思う」,「こうしたらいいんじゃないの」と意見が出てくるというふうに,ステージが変わってきた。ユーザーも完全に対等というのではないけれど,同じ目線で議論するようになった。政治家の方も話し方が変わってきて,演説するというよりは議論するという姿勢になってきている。ニコニコ動画がちゃんとしたディスカッションの場になってきた。

 今までもネットの中で,BBS(電子掲示板)では議論というのは行われてきましたが,ライブでいろんな人が率直に意見を交換しあうということができてきた。それもニコニコ動画の中で,というのは成果かなと思っています。

 最初は,ニコニコ動画のユーザーはあまり政治に関心がないのかなと思っていたのですが,そうではないということがわかった。政治家とユーザーがちゃんと話し合う土壌ができた。