NTTがグループを挙げてSaaS(software as a service)への取り組みを強化している。なかでも力を入れるのはSaaS事業者向けのプラットフォーム分野。NTTコミュニケーションズが「BizCITY for SaaS Provider」,NTTデータが「VANADIS SaaS Platform」の名称でそれぞれサービスを展開する。さらに現在は,NTT持ち株会社の主導のもとグループで,NGN(次世代ネットワーク)向けSaaSプラットフォームの共同開発を進めている。NTT持ち株会社の宇治則孝副社長にSaaSへの取り組みや期待,今後の展開などを聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


「SaaS over NGN」のコンセプトを掲げ,グループを挙げてSaaSに取り組んでいる。

NTT 代表取締役副社長の宇治則孝氏
NTT 代表取締役副社長の宇治則孝氏
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 NGN(次世代ネットワーク)の利用を促進するため,様々なタスクフォースを立ち上げて検討している。SaaSはそのうちの一つ。NTTコミュニケーションズやNTTデータをはじめとしたグループ各社のキーパーソンを集め,SaaSの展開について情報共有を図っている。

 SaaSという切り口で見ると,グループ各社で似たような取り組みを行っている。それなら各社で連携すればビジネスを促進できると考えた。顧客の立場で見ても,グループ各社と個別に交渉するよりはオールNTTで話を進めた方がいいだろう。サービス自体はNTT東西やNTTコミュニケーションズ,NTTデータがそれぞれ提供するわけだが,グループ外の企業と連携してビジネスを展開するような場合はNTT全体で議論が必要なことも多い。その受け皿が必要になる。

 研究所の技術を活用する狙いもある。SaaSプラットフォームの開発には,情報流通プラットフォーム研究所の認証連携技術をはじめ,研究所の技術を積極的に活用していく考えだ。

NGNの利用促進に向けたタスクフォースが複数あるが,SaaSにはどの程度期待しているのか。

 非常に期待している。「NGN」と「光」の組み合わせを生かすという点では,個人向けはインターネット接続と電話にIPTVを加えたトリプルプレイがキラー・アプリケーションになる。一方,法人向けはテレプレゼンスのような映像コミュニケーション系とSaaSである。個人的には,SaaSはNGNのサービスとして最適と考えている。

SaaS関連ビジネスにどの程度の市場規模を見込んでいるのか。

 SaaSの定義による。SaaSの展開に必要なデータセンターやプラットフォームを「PaaS」(platform as a service)と呼ぶ動きもあり,これらを含めて数百億から1千億円規模に成長すると期待している。グループでタスクフォースを立ち上げたこともあり,このくらいのマーケットには育ってほしい。

 2008年5月に発表した新・中期経営計画(関連記事)ではNGNを2010年度までに全国展開するとした。さらにブロードバンド・ユビキタス・サービスの本格展開を2012年度と位置付けた。少なくとも2012年度までにドライブをかけて展開していく。個人的にはSaaSが新・中期経営計画の目玉の一つになると考えており,グループ内でハッパをかけて取り組んでいるところだ。

SaaS事業者向けのプラットフォームはNTTコミュニケーションズなどが既に展開している。グループで共同開発するプラットフォームでは何が変わるのか。

 共同開発の狙いは「SaaS事業者向けのサービス・プラットフォームをワンストップで柔軟に提供すること」にある。現状はネットワーク分野で強みを持つNTTコミュニケーションズと,アプリケーション分野でノウハウを持つNTTデータがそれぞれプラットフォーム・サービスを展開している。加えてNTTデータイントラマートはアプリケーションの開発基盤を持っている。各社が独自に進めても無駄が生じるだけ。これらを組み合わせれば,全く新しいSaaSプラットフォームを作るよりも早く展開できる。互いのプラットフォームを相互に補完しながら共通のプラットフォームを作ることで,その上で動作するアプリケーションにとっても便利なものになる。

 共同開発するSaaSプラットフォームでは,まずはNTTコミュニケーションズとNTTデータのプラットフォームを緩やかに連携することを考えている。“緩い連携”でも互いのインタフェースを合わせ,認証やデータをスムーズに連携できるようにする必要がある。とりあえずは年度内に成果物を出すことを目指している。