NTTドコモは,通信量に応じた2段階のパケット定額サービス「パケ・ホーダイ ダブル」を2008年10月1日に開始した(関連記事)。これまで同社はパケット定額サービスを提供していたものの,パケ・ホーダイで月額4095円,パケ・ホーダイフルで月額5985円の固定となるため,毎月コンスタントに通信量が多いユーザーしか利用しづらかった。2段階のパケット定額の導入は携帯電話事業者の中で同社が最も遅い。導入時期が遅くなった理由や設備への影響などについて,NTTドコモ マーケティング部の田中 宏氏と同無線アクセスネットワーク部の小林 宏氏に聞いた。


(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション



2段階のパケット定額の導入がこの時期になった理由は。

NTTドコモ<br>マーケティング部クオリティマーケティング担当部長 田中宏氏
NTTドコモ
マーケティング部クオリティマーケティング担当部長 田中宏氏
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田中氏:ヘビー・ユーザーは既にパケ・ホーダイを利用しており,2段階のパケット定額の投入はエントリ・ユーザーを増やすための施策になる。これまではエントリを広げるほどの設備と端末が十分に整っていなかったが,ここにきてHSDPA(high speed downlink packet access)のエリアは98%(人口カバー率)に広がり,対応端末の契約数も900万台を突破して環境が整った。

 このほか,コンテンツのサイズが大きくなってきたことがある。デコメールやデコアニメ,地図アプリをはじめ,端末搭載のカメラで撮影する画像も解像度が高くなっている。夏モデル(906i/706iシリーズ)から動画対応を強化しており,今後は生活密着型サービスを増やしていく。これらの機能やサービスを高額請求の心配なしで利用できるように,パケット定額を利用しやすくする必要性が高まってきた。

従来のパケ・ホーダイは月額4095円。これに対してパケ・ホーダイ ダブルの上限は月額4410円に設定されている(iモードだけを利用した場合)。なぜ上限が違うのか。

田中氏:社内でだいぶ議論したが,他社との競争力や収支への影響を総合的に判断した結果,月額4410円に決めた。これ以上は回答できない。

パケ・ホーダイ ダブルに加入した後に「通信量が毎月上限に達しているので,料金が安いパケ・ホーダイに切り替えたい」というユーザーが出てくると思われる。パケ・ホーダイの新規受付を2008年12月31日に終了するのはなぜか。

田中氏:パケ・ホーダイとパケ・ホーダイ ダブルを並存させる選択肢もあったが,料金プランが複雑化するのを避けたかった。ユーザーが分かりやすく,かつ販売スタッフも説明しやすい,シンプルな料金プランの提供を目指している。

パケ・ホーダイ ダブルの導入による収益への影響は。

田中氏:200億円の減収を見込んでいる。収益への影響はパケット定額の既存ユーザーがパケ・ホーダイ ダブルに乗り換えることによる減収と,パケット定額の新規ユーザーが増えることによる増収の二つの要素がある。2008年度は減収の影響が強く出ると見ているが,将来は増収につなげていく。パケット定額の契約率は現在30%程度なので,これを50%以上に伸ばしていきたい。

契約数が増えればトラフィックも増える。設備への影響をどう見ているのか。

NTTドコモ<br>無線アクセスネットワーク部移動無線技術担当部長 小林 宏氏
NTTドコモ
無線アクセスネットワーク部移動無線技術担当部長 小林 宏氏
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小林氏:パケ・ホーダイ ダブルを今回導入した狙いは,パケット定額の裾野を広げることにある。ヘビー・ユーザーが増えるとは考えていない。十分な設備を用意してあり,大きな影響はないと見ている。もちろん現状でも帯域がひっ迫しているエリアはある。ユーザーの利用はどうしても特定の場所に集中するからだ。ただ,その場合も基地局の密度を高めたり,搬送波(キャリア)を足したりしてなんとか対処している。

帯域がひっ迫した場合,音声とパケット通信の制御はどうなる。

小林氏:音声は無線リソースをきちんと確保した上でどんどんつなぐ。パケット通信はあくまでベストエフォートになり,残りの部分で制御する。つまり,音声が混雑してくると,一人当たりのパケット通信の速度は遅くなることになる。

家庭やオフィスに設置した超小型基地局(フェムトセル)でトラフィックを固定回線に“逃がす”動きが進みつつある。

小林氏:フェムトセルによるトラフィックの軽減効果はきちんと検証してみなければ分からない。私見になるが,一つの基地局配下に相当多くのフェムトセルを設置しないとトラフィックの吸収は厳しいと見ている。フェムトセルの導入がすぐにトラフィック対策につながるわけではない。