ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 我が国における会計基準の国際化に関する議論は、2007年8月の東京合意でいったん終結を見たはずであった。ところがその後、IFRS(国際会計基準)の強制適用(アドプション)に関する方向性が打ち出され、さらに2011年の金融担当大臣発言を機にIFRS適用方針の見直しに関する議論が始まり、現在も続いている。

 これら一連の「IFRS騒動」は、米国が2008年にIFRSのアドプションを表明したことに端を発する。この時点で米国が賛意を示した「単一で高品質かつグローバルな会計標準(a single set of high quality global accounting standards)」というある種のレトリックに、米国自身も踊らされたという印象を受ける。これは前回(IASB議長スピーチから見える日本でのIFRS議論の今後)述べた通りである。この議論は過去形でなく、現在進行形である。

一筋縄にいかない標準化作業

 「単一の会計基準」を目標としている以上、標準化の作業はいきおい覇権争い(ポリティクスゲーム)となる。「品質」については、この目標を達成できるレベルを目指すことになるが、その定義は曖昧であった。米SEC(米国証券取引委員会)が2011年11月に出したスタッフレポートではIFRSの品質に関して、比較可能性の観点から強い疑念を呈している(関連記事:米国の動きに見るこれからのIFRS(中))。

 標準化の作業がいかに困難かは、同じ価値観を持っているはずの企業グループにおける勘定科目統一の議論ですら、なかなかまとまらないことからも分かる。結局、プロジェクトをリードする専任の事務局メンバーの価値観に基づいて決めることになる。プロジェクト事務局が覇権を握る形になるわけだ。それを意図して、裏方と称して事務局メンバーを意図的に買って出る場合すらある。

 ただし、現実の標準化プロジェクトでは、そうすんなりとは事が進まない。利用部門や、プロジェクトに間接的に関わるステークホルダー(利害関係者)などが計画段階では賛成していても、活用する間際になって事の重大さに気付き、プロジェクト事務局に異議を唱えるというケースは珍しくない。ここで初めて、真っ当な技術論(多くの場合は標準化のレベルに関する議論)が始まる。

 同時に、社内(企業グループ内)のポリティクスゲームの要素も入ってくる。事務局がそのまま押し切る場合もあれば、利用部門の意見が強く、プロジェクトが頓挫あるいは延期するという事態を招く場合もある。現実のプロジェクトではチェンジマネジメントなどの手法を使って、利用部門を代表とするステークホルダーを味方につけるプロセスが重要にある。