
相変わらず企業の情報漏洩事件が後を絶たない。2012年3月にはソフトウエア販売サイトなどを運営するベクターが、4月には日産自動車の米国法人が不正アクセスを受けたことを明らかにした。いずれも、標的型攻撃と見られる。
標的型攻撃はあらゆる企業が対象となり得る。改めて、標的型攻撃に関する手口を理解したうえで、適切な対策を講じる必要がある。そこで、これまでITproで公開してきた標的型攻撃に関する記事を整理・分類して再掲する。対策を講じる際の一助としてほしい。
標的型攻撃の被害:あらゆる企業が攻撃の対象に
まずは被害に関してだ。今年に入ってから、ベクターや日産自動車(米国法人)以外にも、電子決済サービスを手がける米Global Paymentsなどがシステムへの不正侵入があったと発表した。しかしこれらは、氷山の一角である可能性が高い。なぜなら、不正アクセスの被害に遭ったことを公表しない企業も少なくないと考えられるからだ。
被害を明らかにしている企業は大企業が多い。それだけ、社会的な影響が大きいからと思われる。しかしだからといって、中堅・中小企業が標的型攻撃の対象外というわけではない。5月1日に2011年における世界のインターネットセキュリティに関するレポートを発表した米シマンテックによると、攻撃のうち約2割は従業員250人未満の企業が対象だという。
「自社にはたいした機密情報などない」という人もいるかもしれない。しかし最終的に狙われているのは、自社ではなく、取引先の大企業かもしれない。そのターゲットを攻撃する際の足がかりとして、まず中小企業のほうが狙われるケースは少なくないという。ビジネスの規模によらず、攻撃に備えることが重要だ。
- 日産ネットワークに攻撃、標的はEV技術か
- ベクターに不正アクセス、個人情報26万件が流出の恐れ
- 米電子決済サービス大手に不正アクセス、MasterCardやVisaカード情報流出の可能性
- 【特集】史上最大規模!サイバー犯罪グループを追う
- シマンテックが2011年セキュリティ脅威レポートを発表、攻撃は8割増
- 「2011年は標的型攻撃が増加、1日で80件を確認」---シマンテック
- 2012年のサイバーセキュリティ予測
- 「国内企業の約1割が標的型攻撃の被害」とシマンテックが説明
- 今度は政府機関、止まらないサイバー攻撃
- 小規模企業の半数は「自社は狙われない」、サイバー攻撃の意識調査
- 化学メーカーを狙った「標的型攻撃」が相次ぐ、国内企業も被害
- 防衛産業を狙ったウイルス攻撃が相次ぐ、日本や米国などで8社が被害
巧妙な手口:“知り合い”を装ったメールから始まる
次に、標的型攻撃の手口だ。標的型攻撃の典型的な手口は以下のようなものになる。まずは諜報活動を通じ、ターゲットとなる企業の情報を収集する。その上で、社員に対して知り合いを装い、ウイルスを仕掛けた文書ファイルなどを添付したメールを送り付ける。社員がそのファイルを開けると、リーダーソフトなどの脆弱性を突いてパソコンをウイルスに感染させる。パソコンに感染したウイルスは社内システムにバックドア(裏口)を設け、別のウイルスを送り込んだりサーバーに不正アクセスするなどして機密情報や個人情報を盗み出す。
ここでポイントとなるのは、社員がウイルスの仕掛けられたファイルを開くと、同時に正常なファイルも表示し、社員に不信感を抱かせないということだ。また、フィンランドのF-Secureによると、知り合いになりすましたメールもかなり完成度が高いという。日本語を使った標的型攻撃メールが海外から送られる際も、機械翻訳などの不自然な文章ではなく、完全な言葉遣いで書かれているとしている。
最近の傾向としては、諜報活動にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が悪用されるケースが増えてきていることだ。特に、本名で登録して所属会社もきちんと公開しているSNSでは、普段の生活や交友関係などを攻撃者に把握される可能性がある。もちろん、SNSはビジネス活動を行う上でも非常に優れたツールであることは間違いないが、その一方で、こうした危険性もあるのだということは頭の片隅に持っておいたほうが良いだろう。
- 【特集】進化するサイバー攻撃
- 「暗号化した文書ファイルにウイルス」---新たな標的型攻撃
- 「メールで送付されたDLLファイルに注意」、新たな標的型攻撃が出現
- 標的型攻撃を防ぐには最新のパッチが有効、ゼロデイ攻撃は多くない
- SNSで公開した情報が企業からのデータ漏洩のきっかけに
- 「標的型攻撃は社内サーバーを狙う」---内閣官房が注意喚起
- Adobe Readerの脆弱性を突く攻撃、ターゲットは防衛関連企業
- 標的型攻撃メールは100万通に1通、国内では1割以上の企業が経験
- 「標的型攻撃」メールに添付されるウイルス、半数は脆弱性を悪用
- 【特集】過激化するサイバー犯罪
- 半年で900件の「標的型攻撃」、警察庁が発表
- 「Webページをコピペ」「社内メールを悪用」---「標的型」だましの手口